250万人のファンの“熱量”とトークンを掛け合わせる──ファンクラブ運営会社がIEOで目指すものとは?
ファンの継続的なエネルギーをサステナブルなサービスに落とし込む
──今、音楽業界では、Web3への取り組みは積極的なのでしょうか。 佐藤:まだまだこれからです。ですが、そんなことを言っていると、あっという間に置いていかれることを過去に何度も経験しています。今はまだ黎明期ですが、いずれ盛り上がったときに、しっかりとプレイヤーになれるように準備することが重要です。 音楽配信では海外のサービスが日本に上陸してきて、我々はSpotifyやApple Musicに音楽を預けないと流通させることができない状況になっています。SNSもすべて海外のサービスです。新しいものを日本から生み出していくためには、早めに動き出すべきだという思いがあります。 秋元康先生たちはすでに、IEOで資金を調達し、オーディションを行ってアイドルグループをデビューさせるプロジェクトに関わっています。非常に手応えを感じているようで、先日、第2弾のプロジェクトを渡辺創太さんとパートナーシップを結んで発表しています。 関連記事:渡辺創太氏のスターテイル、秋元康氏のアイドルプロジェクトと戦略的パートナーシップ──キラーユースケース創出へ ──Nippon Idol Token(NIDT)は、「アイドルオタク」を自認する人たちがIEOで資金を集め、女性アイドルグループ「WHITE SCORPION(ホワイトスコーピオン)」をデビューさせました。どういった印象を受けましたか。 佐藤:オーディションでアイドルを生み出す手法は、以前から日本にもあり、手法自体には馴染がありました。今はK-POPアイドルのオーディションに日本人が参加することも増えています。ですが、IEOで資金を調達し、プロジェクトにトークンを活用するという新しさがありました。 関連記事:IEOはアイドルオタクの夢を見るか──取引初日の下落から回復、NIDTとIDOL3.0 PROJECTの行方は? オーディションの選考過程に参加して、「このメンバーをデビューさせたい」という思いは、応援する人たちの中に非常に強くあります。さらに、デビューした後も、活動していくなかでの利益配分までも含めて考えると、トークンの活用はとても有意義です。我々は、K-POPスタイルのオーディションでデビューを目指す「PRODUCE 101 JAPAN」から生まれたアイドルグループのファンクラブを運営していますが、応援の熱量はすごい。このオーディションシステムにトークンを活用すれば、ものすごい熱量が生まれると感じています。 ──Emooteは発行体のチームに参加し、トークノミクス設計やプロダクト企画を担当します。現状、どんな工夫やアイデアを描いていらっしゃいますか。 熊谷:まず、Web3全体の課題として、いわゆる「プレイ・ツー・アーン(P2E)」モデルでは、ユーザーがトークンを受け取るところまでは良いのですが、トークンの消費先がありません。トークンがうまく消費されないので、売り圧力だけになってしまい、サステナブルなエコシステムを構築できません。シンプルに言うと、トークンのユーティリティをいかに作っていくかが重要です。 今回の取り組みは、2方向のマーケットプレイスだと捉えていて、1つはアーティストのファンの方々がチケットやグッズを買うことで消費が発生するものです。ただし、それだけでは法定通貨をトークンに置き換えただけ。トークンの経済圏を作っただけになってしまいます。ポイントはもう1つ、つまり、トークン保有を通じてファンをプロジェクトに巻き込み、何かを一緒に共創していくところにあります。例えば、ファン参加型でライブを作り、そのプロセスでトークンの消費先を作るなどです。 短期の投機ではなく、長く事業としてやっていくためには、5年10年をかけて大きくしていく必要がありますし、そうでなければアーティストやクリエイターも安心して踏み込めません。適切なお金もマーケットから入ってこないと思います。ユーザーも安心して物を買ったり、投資できません。あくまで長期でどう運営していくかを考えています。 佐藤:ファンクラブは、コアなファンと向き合っています。アーティストがデビューして人気が出ると、会員数が一気に増えますが、ピークを超えると維持することがベースになります。ですが、そこからがまだまだ長いのです。先日、矢沢永吉さんが活動50周年を迎えました。つまり、50年間アーティストをずっと応援している人たちがいるわけです。そこまでではなくても、10年20年と活動しているアーティストはたくさんいて、その間、ずっとファンクラブに入って応援し続けるファンがいます。特に初期から応援しているファンはずっと関わり続けるエネルギーが非常に大きい。継続的なエネルギーをサステナブルなサービスに落とし込むことは非常にフィットしていると思います。 熊谷:日本は「2次創作」が盛んです。今まで消費者だったファンを巻き込み、共創する環境を作りやすいと考えています。ライブを作る、楽曲を広める、応援広告みたいなものもあります。そういったものをFanplusのプラットフォーム上で生み出していく。ファンが対価を受け取るサポーターになれる、そういった経済圏を作っていきたい。 井坂:長く応援していて、万一、何かの理由で推し活が終わってしまうような状況になっても、思い出とともにしっかり残るもの、流通するものが生まれるようになると素晴らしいですね。 佐藤:結婚したり、子どもができると、ファンクラブを退会してしまうこともありますが、「好きな気持ち」は簡単には消えません。子どもが成長して、時間ができて、またライブに参加したり、今度は子どもと一緒に参加するというシーンを我々は実際に目にしています。若い頃の応援のエネルギーが時間を超えて広がっている。アーティストも成熟していって、若い頃から10年20年経てば音楽も変わり、ライブの演出も変わっていきます。長く応援できる要素が音楽にはあります。