250万人のファンの“熱量”とトークンを掛け合わせる──ファンクラブ運営会社がIEOで目指すものとは?
「足し算」ではなく、トークンによって「掛け算」を可能にする
──今後、Web3サービスを具体的に考えていくときに、特に意識していることはありますか。 佐藤:日本のエンタメは基本的に定価のサービスです。例えば、ライブチケットは8000円、CDは10曲入りで3000円、ファンクラブは年間6000円くらいです。人気が出てきて、スケールするときのビジネスとしては明確なのですが、安定期に入ると限界が生まれます。会員が増えなくなったり、CDが以前のように売れなくても、アーティストとして活動している価値や作っている音楽の価値が毀損するものではありません。長く、いつまでも聞いてもらえる楽曲があります。そこをいかに、これまでとは違う方法でスケールさせていけるかが大きな課題です。 ファンクラブサービスは定額制のストックビジネスで、安定性があることはアーティストにとって大きな意味があります。実際、コロナ禍でライブができず、チケット収入がなくなったときも、ファンクラブは会員が大きく減ることもなく、アーティストをずっとサポートできました。ですが価値をもっと最大化できる方法論を提示できないと、今以上にサポートすることはできません。配信、投げ銭、ゲームと提供するアイテムを増やしていく「足し算」的な取り組みはすでにありますが、ひとつひとつに労力がかかり、限界を感じているところもあります。 足し算ではなく、「掛け算」にできる方法論はないかと考えたときに、例えば、ライブの最前列は熱量のあるファンがプラスしてお金を出して購入できるようなサービスや、アーティストと会える「ミート&グリート」も抽選で当たるほかに、対価を支払って実現できるようなサービスがあってもいいのではないか。いわゆる「推し活」の熱量をダイナミックプライシング化していくことを考えています。 またトークンを活用することでファンクラブサービスの価値自体が上がれば、アーティストの収入も大きく変わる可能性があります。アーティストが活躍して、成果を手にしている姿を見て、子どもたちが「あんな風になりたい」と思い、音楽を始める。今、子どもたちは「大谷選手みたいになりたい」と思っているかもしれませんが、2000年前後はCDセールスの絶頂期で、時代の寵児のようなアーティストが生まれ、そうした人たちが活躍する姿を見ることで、多くの人の音楽を作るモチベーションを刺激した面があります。足し算ではなく、掛け算でアーティストが豊かになれる構造を提示できないと、日本の音楽シーンが衰退してしまうのではないかという危機感があります。そうした面にも影響を与えられる可能性がトークンにはあると考えています。 熊谷:いろいろと話をするなかで、佐藤さんはアーティストを正しく評価する仕組みを作りたいとさまざまなアイデアを提案されます。魂が込もっていると感じます。Web3はどうしてもトレンドを追ったり、あるいは業界のことを知らないままでサービスが作られているような面もあったりしますが、今回はあくまでもファンクラブサービスの重要なハブとしてWeb3を使っていきます。一緒に新しい世界を作っていきたいと思っています。