男子100mの激戦を制したケンブリッジ飛鳥の強さの秘密と9秒台の可能性
「日本最速」を決める戦い。今年は五輪トライアル。8人の選手たちが放つ独自の緊張感は、パロマ瑞穂スタジアムに集まった2万3500人を超える観衆にも届いたはずだ。小雨が降る中、カクテル光線に照らされたスプリンターたちはまぶしく映った。 日本選手権100m決勝は、静寂の後に大歓声がこだました。山縣亮太(24、セイコーホールディングスAC)か、それとも桐生祥秀(20、東洋大)か。序盤はV候補ふたりが飛び出した。50mでは山縣がリードを奪う。しかし、ここからダークーホース的存在だったケンブリッジ飛鳥(23、ドーム)が猛追した。桐生をかわすと、ゴール直前には山縣を逆転。向かい風に「9秒台」は阻まれものの、史上最高レベルの戦いをケンブリッジが10秒16(-0.3)で制した。2位は山縣で10秒17、3位は桐生で10秒31だった。 五輪参加標準記録「10秒16」に到達して、優勝を果たしたケンブリッジはリオ五輪代表が内定。派遣設定記録「10秒01」を突破している桐生も「8位以内」に入ったため、代表が内定した。山縣は内定こそでなかったが、日本選手権終了時の選考基準「参加標準記録+日本選手権3位以内」という条件をクリアしており、代表入りは濃厚だ。 特徴の異なる3人が激しく競り合ったレース。山縣は「自分の走りはできたと思うけど、ケンブリッジ君が強かった」と冷静に振り返った。スタートから中盤までの流れは良かったものの、終盤はケンブリッジの存在が影響したのか、動きが硬くなった。 3位に終わった桐生は囲まれた記者の前で珍しく取り乱していた。「レースとしては何も言えないというかちょっとわかんないです」と話すと、涙が止まらなかった。 「こんなかたちで五輪を決めるはずじゃなかったですし、一番嫌な決まり方でした。人前で泣くのは嫌ですし、泣くなら勝って泣きたかった。ちょっと申し訳ないですね」 前日の準決勝までは順調で、決勝も気持ちが高まり、「行ける感じはしていた」という。だが、「ちょっと踏み外して」と言いかけて、「いや、やっぱりいいです。これを言ったら言い訳になってしまうので」と言葉を濁した。 レース前か、スタート時なのかわからないが何かしらのアクシデントがあったようだ。持ち味である中盤の爆発力は不発で、終盤は流してゴールするかたちになった。レース後は右脚を気にするそぶりを見せており、レース中に何か異変が起きた可能性もある。