お金があまりかからない「近所のお祭り」にすら「格差」が生まれている「意外な現実」
習い事や家族旅行は贅沢?子どもたちから何が奪われているのか? 低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」、人気の水泳と音楽で生じる格差、近所のお祭りにすら格差がある……いまの日本社会にはどのような「体験格差」の現実があり、解消するために何ができるのか。 【写真】子ども時代に「ディズニーランド」に行ったかどうか「意外すぎる格差」 発売たちまち6刷が決まった話題書『体験格差』では、日本初の全国調査からこの社会で連鎖する「もうひとつの貧困」の実態に迫る。 *本記事は今井悠介『体験格差』から抜粋・再編集したものです。
近所のお祭りにすらある格差
遠くの旅行や観光の機会に家庭の経済力の差が出やすいことは想像しやすい。では、近所のお祭りやイベントごとだとどうだろうか。 その点を聞いてみた結果がグラフ15だ。すると、「旅行・観光」ほどではないが、「地域の行事・お祭り・イベント」でも、やはり世帯年収の違いに応じて、子どもたちの参加率に差が生じていることがわかった。年収600万円以上の家庭と300万円未満の家庭では1.3倍超の格差だ。 交通費や宿泊費などがかからない近所の行事などですらこうした格差があるのはなぜか。まず、お金の問題はあるだろう。数十円、数百円という単位で日々節約に励んでいる保護者にとってみれば、お祭りで色々なものを買い与えることも十分負担になる。 そして、時間的な制約、体力的な制約の問題も、やはりあるだろう。地域の行事やお祭りなどは、単にお金を払って参加するだけでなく子どもや親が出し物を提供する側に回ることまでが「参加」の意味合いに含まれている場合も少なくない。 地域のお祭りなどの活動に積極的に参加できるのは、経済的にも時間的にも、ある程度の余裕がある方が多いかもしれません。日中に仕事をしながら一人で子どもを育てていると、送迎や付き添いとか、そういった面で難しいなと感じます。 あるシングルマザーの女性からお話を伺う中で語られた実感だ。 加えて、情報の問題もある。無料で参加できる地域のイベントがあってもその情報を知らないという問題だ。 経済的困難を抱える子育て家庭向けに地域の様々な情報を配信する事業を行う、NPO法人チャリティーサンタ理事の河津泉氏は次のように話す。 たくさんの情報の中から自分たちに合う情報や必要な情報を探すのがしんどいという声は多いです。例えば、地元の有名企業が主催する無料の「仕事体験プログラム」は毎年人気ですが、こうしたイベントには情報感度の高い人たちの申し込みが集まり、すぐに枠が埋まってしまいます。そのため主催企業もそこまで積極的な広報をしません。低所得家庭のもとには、こうした情報がなかなか届かないんです。 無料で提供されている色々なイベントがあるじゃないか、お金がなくてもそれをちゃんと探して参加すれば十分だ、そんな意見もあるかもしれない。 しかし、情報を探すのにも時間がかかる。労力がかかる。毎日働くことに精一杯で、地域とのつながりを持つことができず、親同士の関係も構築できず、口コミでの情報が自分には回ってきづらいのだという声もたくさん聞いてきた。 親の努力でどうにかできることがないわけではない。それはそうかもしれない。様々な制約の中で必死の工夫を重ねる保護者たちもいる。 ただやはり、子どもたち一人ひとりの姿を思い浮かべるなら、そしてかれらにはどうにもできない「体験」の格差のことを考えるなら、それが保護者の自己責任に帰すれば済む問題でないことは、明らかだと思える。
今井 悠介(公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事)