《日本版ライドシェアの拡大》やみくもに反対しているだけでは地方の「交通難民問題」は解決できない!
■ 「交通移動権」を保障するためにも前向きな議論が必要 そんな状況をどう打開しているのか。実は地方ではタクシーの“実質値引き”が横行している。 お得意様を作り、メーターを途中で止める、待機時間も支払いモードにしてメーターが上がらないようにする等々、便宜を図っているのだ。交通の流れが良い地方道では、距離の割に旅行時間が短くて済むため、規定の料金をもらわなくても何とか採算が取れる。ドライバーはもちろん苦しいが、ない袖を振れないユーザーが利用を控えるよりはマシというわけだ。 そんな地方部こそライドシェアを積極的に拡充させていくべきだろう。クルマが必需品であることから、多くの人がクルマを保有している。どのみち保有コストがかかるのであれば、それを活用して、いくばくかの収入を得たいという人も少なからずいるだろう。 自前で車両を用意するタクシーのように事業のイニシャルコストが丸々かかってくるわけではないので、料金水準をタクシーより大幅に安くしても採算は十分に合う。利用者とサービス提供者はWin-Winの関係でいられる。 ライドシェアに利用が集中すると、タクシー事業者の商売は上がったりだが、収入を得る道はある。ライドシェア登録希望者の身辺調査、健康チェック、運行管理、講習・教育など、クオリティーを担保するためのサブプラットフォーマーへの転換を図るのだ。 こう言うと、バカにするなと怒る事業者も少なからずいることと思う。だが、考えてほしい。現在の地方部の法人タクシーは薄給激務で働くプロドライバーの“厚意”にほぼ頼り切っている状況だ。 「労働条件が悪過ぎるため、タクシードライバーの不足はひどくなる一方。若者はまずやらないし、燃え尽きて引退していく人も多い」(島根県のタクシー運転者) 政府の地方創生のかけ声もむなしく、従来のシステムでは社会を回せない自治体が続出していることを考えると、タクシー会社も余力のあるうちに事業形態の転換を図った方が将来展望を描ける。 このように、ドライバーの平均収入が比較的高く、純粋にタクシー不足が問題となっている大都市圏と、インフラを保つことが難しくなりつつある地方部では、ライドシェア導入に関する論点が異なる。 ライドシェア全面解禁に関しては、これからも法整備の検討も含め、いろいろな課題が浮き彫りになることだろう。だが、課題というものはとにかくやらなければ見えてこないものだ。安全・安心が制度設計のベースであることは言うまでもないが、過剰な“安全運転”では時を失うばかり。 まずやってみてダメなところをつぶしていくというやり方は日本社会が苦手とするところだが、人口減少時代に基本的人権の中核のひとつである交通移動権を保障するためにも、前向きな議論が大いに盛り上がることを期待したい。
井元 康一郎