世界的数学者も生み出した、60年以上続く学力コンテストの凄み
添削料は84円切手で割り切れる額
添削料が切手で支払い可能というのも、今も続いている。6題全部解くと添削料は1092円、3題で840円と、ちゃんと84円切手で割り切れる金額だ。毎月送られてくる答案用紙は約500通。高校生を中心に小学生もいれば、数学好きの社会人、数学教師もいる。添削にこだわる理由は、ひとつの問題にじっくり取り組んでほしいからだという。 「たとえば参考書だと、演習問題の答えがすぐ見られるじゃないですか。でもこの添削は次々号でないと解答がわからない。本当に考える力を養うための方法です」(横戸さん) なので各問題文には解答時間の指定はない。だいたい2週間後の締め切りまで、毎日考え続けてもよい。 問題文はたとえば、10月号の第5問はこんな感じだ。 《5.四面体ABCDは、DA=1、DB=DC=2を満たし、面ABCが正三角形であるとする。(1)正三角形ABCの一辺の長さαの取りうる値の範囲を求めよ.(2)四面体ABCDの体積の最大値を求めよ.》 一見シンプルな問題だが、横戸さんによると「解答につながる考え方の導入が省略されていて、理数系でも数学が得意な人向けの問題です」。
問題の範囲は高校課程までで、レベルは難関大学の入試問題の難問クラスを想定している。問題制作を担当している編集部の山崎海斗さん(29)は、「私の場合はお風呂に入っているときに問題のヒントが浮かぶことが多いですね」と笑う。 「昔の問題の条件を変えてみたりとか、解法手順を想定して、その流れになるように問題を作ったりとか、作る人によって違います。私は実際にいろいろ手を動かして考えているうちに問題になっていた、というパターンが多いです」 もうひとりの担当者の浦辺理樹さん(64)は、編集部に勤めて30年のベテランだ。 「同じ人間が長く担当しているので、凝りすぎたり、難しくなったりしがちなんです。そこの調整は気を使っています」
手書き文字が人と人をつなぐ
答案は「学コンマン」と呼ばれる添削者が添削する。20人程度で編集部員の他は大半が大学生のアルバイトだ。「学コン」がこれまで続いてきた理由は問題の質の高さだけではない。「学コンマン」との交流が大きい。横戸さんが肯く。 「紙にお互いが生の文字で書いていくというのが大きいです。添削でただ模範解答を記すのではなく、解答者の思考過程を読み取っていって、『ここの考え方が間違っている』と指摘しないといけません。またこちらの想定外の画期的な解き方をしてくる人もいます。けっこう骨が折れる作業ですよ」