実は“益虫”も多い? 害虫として知られる「ゾウムシ」の生態について、東京農業大・小島弘昭教授が解説
川瀬良子がパーソナリティをつとめ、日本の農業を応援するTOKYO FMのラジオ番組「あぐりずむ」。毎週火曜は、農業はもちろん、時代の先を捉えるさまざまな研究をおこなっている東京農業大学の農学研究を紹介します。9月3日(火)、9月10日(火)の放送では、昆虫学研究室の小島弘昭(こじま・ひろあき)教授に、研究領域である「ゾウムシ」をテーマに伺いました。
◆「ゾウムシ」ってどんな虫?
小島教授によると、ゾウムシはカブトムシやコガネムシなどと同じ甲虫類で、日本に約1,700種、世界には約6万種もいる生物界で最も種類が多い生物。また、成虫は主に葉っぱの裏や木の幹の隙間などにいて、植物を食べて過ごすそうですが、「虫にとって、植物を利用するのは結構ハードルが高いことなんです」と言います。それは、植物も食べられまいと防御物質を進化させているので、植物体内に毒を生産するものも多く、「(食べた植物に)毒があると、その毒で体が侵されてしまうので、それを生理的に克服できないと消化ができないわけです」と解説します。 そんなゾウムシの研究に小島教授は30年近く携わってきましたが、小島教授がこれまでに発見した新種は約200種だそう。「フィールド研究は日本が多いのですが、“このゾウムシはこの植物に発生する”っていうことが、調査をしているとだんだん分かってくるじゃないですか。そうやって調査して(ゾウムシの仲間を)捕っていくわけですけど、それが海外だとほぼ新種なんですよ。(これまで発見記載した種は)全然多くはないので、これを何倍にも加速させるような仕事をしようと思っています」と意欲をのぞかせます。
◆実は“益虫”も多い「ゾウムシ」
植物が子孫繁栄していくには、風や虫、動物に頼って花粉媒介しないと子孫を残せません。そんななか、ゾウムシは植物を食べる“害虫”という側面がありますが、「実は花粉媒介に寄与しているゾウムシの種も少なくないんです」と小島教授。 花粉媒介というと“ハチ”などをイメージしますが、「ハチって、ゾウムシよりも遥か後に地球上に現れた昆虫で、その前から植物は存在しているわけです。そういう起源の古い植物がどうやって花粉媒介していたかというと、ゾウムシをはじめとする甲虫の仲間なんです。ですから、(ゾウムシには)そういう益虫も実は多いんです」と説明します。 世界に目を向けてみると、欧米では雑草を“虫”で防除する手法がとられているケースも。先述のように、ゾウムシは植物を食べるため、数を増やして植物に放てば食害して比較的短期間で雑草を枯らしてくれます。 ほかにも「今“イタドリ”という(日本の)至るところに生えている植物が、イギリスに侵入して猛威を振るっているんです。それで“一番食害率が高いのは何か”“導入しても問題がないか”など、いろいろなことを何年もかけて検討しています。そういった研究は欧米のほうが進んでいるので、(日本でも)そういう環境をつくれば、農薬の使用量も減ると思います」と力を込めます。 また欧米では、甲虫(ビートル)を温存するために畑の近くにあえて雑草を生やす環境を作ることも。これを“ビートルバンク”といい、「昼間は何も動きはないんですけど、夜になると雑草にいるゴミムシの仲間が畑に行って害虫となるような蛾の幼虫を食べてくれます。そして、また昼間になるとビートルバンクに戻るんです」と解説します。 続けて「イギリスとかでは農業政策がすごく進んでいて、そういった海外の知識や技術が、数十年ぐらい遅れて日本に入ってきます。また、海外には“昆虫学科”がある農学系の大学もあります。それぐらい、農業を学ぶうえでは昆虫を学ぶことも大事です」と力説していました。 (TOKYO FM「あぐりずむ」2024年9月3日(火)、9月10日(火)放送より)