入院中の子どもたちに穏やかな日常を【医療チームの一員! ホスピタル・ファシリティドッグ】
◇ファシリティドッグがもたらす日常
病院には何年も入院生活を送っていたり、最新の医療を提供しても治癒を目指せなかったりする場合など、さまざまな状況にある子どもがいます。マサはどんな時も、子ども目線で寄り添います。 ・はなちゃん(仮名、2歳) 体の大きなマサが怖くないよう、近くにピクニックシートを敷いて横になり、側にいることに慣れてもらうことから始めました。はなちゃんはあまり体調が良くなかったこともあり、当初は興味を示しませんでしたが、次第にマサを見つめるように。そのうち横にゴロンとし始め、それからはマサと何気ない日常を過ごすことが多くなりました。母親は、家にいるような空気をマサが運んで来てくれると感じていたそうです。 ・みこちゃん(仮名、10歳) マサが訪問するといつも「他で頑張っているから、ここでは寝ていいんだよー」と、マサが寝られるようベッドを空けてくれ、「マサはいてくれるだけでいいの」と話します。その後、体調が悪化して体が起こせなくなった時でも、マサが行けばすくっと体を起こし、生き生きとした笑顔になっていました。そんなマサとの関わり合いは、病状が厳しいという現実をふと忘れ、ホッとできる時間だった、と母親が話してくれました。 ・まみちゃん(仮名、11歳) 病状の悪化に伴って目標を見失いかけ、医療者へいら立ちを見せることがありました。マサは検査や治療に計画的な介入をし、点滴などの痛みのある処置やリハビリに付き添いますが、このような状況になると大好きなマサですら遠ざけるようになり、サポートできなくなることもありました。そんな時、自宅で飼っていた犬とどのように過ごしていたかを聞き、同じように枕元で、ただそばにいる形でサポートを続けたことがあります。後に、その時に離れずにいてくれたことがありがたかったと話してくれました。
◇子どもたちの力を引き出す
私がマサと活動していて印象に残ることの一つは、動けなかった子どもたちがマサを見ると動くことができ、活動する意欲が出るという点です。好きなゲームもできずにいた男の子がマサと会うと気分が軽くなり、ゲームもできた。食事も取れた。「マサがいると宿題がはかどるんだよね」といった場面も。 もともと動物がいるだけで、子どもたちに情緒的な成長や心を安定させることは研究で報告されています。特に入院時は、マサがいることでストレスを緩和させ日常を感じたり、リラックスしたりするなど、とても意義があると思います。 また、マサと関わることで子どもたちが能動的に行動し始めます。これは子どもたちの成長においてはとても重要なことです。病院では、検査や治療など自分でコントロールできることが少なくなりますが、マサとの時間は、遊びや学習という場を確保するだけでなく、子どもたちが自己コントロール感を保てることにもなるのだと学びました。 こうした関わりは、病院に専属で働くファシリティドッグと臨床経験があるハンドラーであるからこそできることと思っています。そして、このファシリティドッグとの日常や寄り添いが、入院中のどんな場面でも子どもたちを支え、力を引き出していくのです。(了) *チャイルド・ライフ・スペシャリスト=医療環境にある子どもや家族が抱えうる精神的負担を軽減して、主体的に治療に臨めるように支援する専門職。