<対中政策は日本立国の基本>「白か、黒か」の視点から脱却を
中国の「グレーゾーン」に「黒白」をつけた日本
そもそも日本と中国では、政治・社会の常識が少なからず根本的に異なる点、多くの日本人は思いを致さない。中国の言動は不可解・理不尽とみなすのが、通例にして大多数である。しかし日本人にそう映るのは、前提の常識が異なるからにすぎない。少し立ち入って考えれば、理解もできるし、論理的でもある。 例えば領土問題について、中国ほど多方面で国境問題を抱えている国も少ない。必ずと言ってよいほど、隣国と主張が食い違うのは、日本と同じく、前提が異なるからである。 「天命を受けて、天下を治める」というのが中国の歴史的な政治理論だった。天下は文字どおり「天の下」だから、そこに「土地を区切る」という発想・観念はない。自分たちの実効支配、実力の及ぶ範囲は認識意識していても、かねて明確な線を引くことはなかった。 国境・境界という概念を得るのは、西洋との通交が始まり19世紀も終わる頃、また本格的・自発的に考えるようになったのは、20世紀に入ってからである。それでも歴史的な世界観は、容易には変わらない。 基準とする過去の領域が曖昧なので、新たに引く線も可変的だった。画分する線ではなく、いわば黒白定まらぬ「グレーゾーン」となる。 中国にとってその「ゾーン」は、譲れない核心地域を外敵から守る緩衝地をなしてきた。この点、海に囲まれて海岸線で仕切られ、また主権国家概念をいち早く直輸入できた日本では、およそ想像できない。 そんな中国側の見方は、現代も一貫している。尖閣諸島でいえば、日本と中国の双方が領有権を主張している時期は、中国にとっても「グレーゾーン」だった。しかし2012年、当時の民主党、野田佳彦政権下で尖閣諸島の国有化を決定すると、日中関係は急速に悪化した。日本の側が「グレー」にことさら「黒白」をつけたからである。 以後、今に至るまで、尖閣諸島を巡る日中間の摩擦が絶えないのは、日本がつけた黒白を、中国があらためて「グレー」にすべく動いているからである。日本や欧米諸国の原理原則に、納得することはなかった。 日本が自らの原則を譲ることなく黒白を維持するつもりなら、摩擦熱に堪えながら、しかも発火点には達しないよう、中国に対応し続けなくてはならない。双方の秩序を支える原理が歴史的に異なるのだから、致し方ない事態ではある。 このように日本国内の、あるいは欧米諸国の理論が常に通用するとは限らない。それが必須の前提である。しかしそこに思い至っている日本の当局者・関係者、そして日本人はどれだけいるだろうか。