『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の著者は印税5000万円をFXで溶かし…その後YouTubeで大儲け!(あの人は今)
【あの人は今こうしている】 山田真哉さん(48歳) 経済学や会計学、税金の本などは難しく、ビジネスなどに必要とわかっていても、入門書さえ途中で放り出してしまいがち。ところが、2005年に発売された新書「さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学」(光文社)は違った。わかりやすく、面白く、ベストセラーとなった。著者の山田真哉さん、今、どうしているのか。 【写真】ヒット曲「金太の大冒険」で♪金太負けるな~連呼 つボイノリオは「印税は一銭も入らず」と今も嘆き(あの人は今) ◇ ◇ ◇ 山田さんに会ったのは、JR渋谷駅から徒歩4分の、山田さんが会長を務める「芸能文化税理士法人」。あれ、山田さんは税理士ではなく、会計士じゃなかったっけ? 「会計士は税理士業務もできるんです。会計士として東証グロース市場に上場する株式会社ブシロードや、その子会社の新日本プロレスの社外監査役を務めていますが、メインはこの芸能文化税理士法人の仕事です。『さおだけ屋--』が168万部売れてテレビやラジオの仕事をするうち、芸能人から税関係の相談を受けるようになり、依頼が増え、今は約300人の顧客がいます」 300人? 「みなさんがよく知るアイドルや声優、YouTuber……小説家や漫画家もいます。事務所の売り上げは年間2億円。税理士を含めスタッフ20人を抱え、また顧客には個人事業主の方が多いので、儲かりはしませんが楽しいですよ。個人で運営しているYouTubeの方が、僕個人の収入は大きいですね」 18年12月、「少しだけお金で得するオタク会計士チャンネル」を立ち上げた。自身で企画・台本執筆・出演・編集をこなし、年3000万円を売り上げているという。 「朝9時から夜7時までは芸能文化税理士法人の仕事をし、帰宅して、食事などを済ませた後の夜9時から午前2時までと、土日をYouTubeにあてています。週1で更新し、現在、登録者数は約90万人。40歳代のうちに100万人、が目標です」 時流にしっかりのっている。山田さん、ヤリ手だ。 ■印税は億超えもリーマン・ショックで大損 「『さおだけ屋──』で得た印税は億を超え、自宅の購入、貯金、そしてFXに投資しました。ところが、2008年のリーマン・ショックでFXに投資した5000万円を溶かしてしまい、『地道に働こう』と2010年に芸能文化税理士法人の前身を立ち上げたんです」 痛い思いもしたのだ。 「YouTubeは、テレビの仕事で納得がいかないことがあり、そのリベンジで立ち上げました。ボクが提案した節約ネタを他の文化人にしゃべらせたり、準レギュラーだった番組を突然クビにされたり。ボクの実力不足もあるとはいえ、テレビに頼らず、自分の伝えたいように伝えられる媒体を持ちたいと思ったのです」 じゅうぶん見返した、というわけだ。 「最初はYouTubeを甘く見ていて苦戦し、登録者が1000人になるまで半年かかりました。それで、人気動画を見て勉強し、新型コロナで持続化給付金の申請方法などが求められたときに伸びました。多くの方が大変なときに、お手伝いができて良かったです」 作家活動も続けているのだろうか。 「いえ、出版からは足を洗いました(笑)。最後に単著で出したのは、もう7年前。依頼は今も年100件ほどきますが、本は売れないと編集者や営業担当者に迷惑をかけるのがストレスだし、YouTubeの方が早く、深く、より多くの人に情報を届けられますから。ただ、もう1回、100万部ヒットの本を作りたい気持ちは、今もあります」 実は、これまでの著書もYouTubeも、6歳年上の元大手シンクタンク勤務の夫人の助力が大きいという。 「妻は文章やデザインが得意なので、ボクが書いた文章を校正したり、YouTubeのサムネイルを作ったりしてくれているので、一緒に作ってきたという感覚があります。友人の紹介で知り合い『さおだけ屋──』を出す前年に結婚しました。『さおだけ屋──』が売れると『私のおかげでもあるのよ』と(笑)。それで、出版社の社長に赤坂の料亭などに招待いただいたときは、妻同伴にさせていただきました」 港区内に、夫人と中学3年生の長女と3人暮らしだ。 さて、神戸市出身の山田さんは、大阪大学文学部卒業後、公認会計士2次試験に23歳で合格。大手監査法人に勤務する一方、会計士の資格を生かした小説「女子大生会計士の事件簿」(英治出版)で作家デビューした。 05年、ビジネス書「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」を出版。ベストセラーとなり、一躍、時の人となった。 「小説も『さおだけ屋──』も、会計士の仕事をもっと知ってほしくて書きました。売れると周囲はチヤホヤ、売れなくなると連絡がパタリと来なくなりました。おかげで、売れた人の気持ちや、そこから落ちた人の気持ちがよくわかり、芸能文化税理士法人の顧客であるエンタメ界の人の気持ちがよく理解できます(笑)」 そんな税理士、会計士も珍しい──。 (取材・文=中野裕子)