太田良 監督 × 安川有果 監督が語る 実話を基に、今までにない学園ドラマとして作られたオリジナルストーリー「恋愛バトルロワイヤル」
Z世代の恋愛観・人間関係
池ノ辺 この作品は学園の恋愛ものですが、特に今時の世の中を投影しているものでした。例えば、LGBTQ +に関しては、台本や演出などについて当事者団体の方に相談したと聞いています。実際にはどういう形で進めていったんですか。 太田 まず、大前提としてLGBTQ +当事者の視点を理解する必要があると思い、お話しを伺いました。そこから、こちらが描きたいものをストーリーにして、読んでいただいて指摘を受ける、というような形になります。印象的だったのは、登場人物の1人として見た時に、その人がどういう佇まいをしているのか、ファッションは? アクセサリーは? などの細部への指摘です。つまり、「こういうセクシュアリティの人はこういう格好をしている」というようなお決まりのキャラクタライズをしない方がいいということです。細かなところでそういうやりとりをしながら進めていきました。 安川 例えば、今まで自分たちが浴びてきた物語の影響もあって、「ゲイの男性はおしゃれでポップである」というふうに悪気なく設定してしまいがちなんですけれど、「それって思い込み、紋切り型じゃない?もっといろんな人がいるんじゃないか?」という指摘を受けて脚本が変わったこともありました。 あとは、2人の脚本家と3人の監督がいて、それぞれ生きてきた環境も経験も違う、知識量も違う。そうした中で、自分はここが気になるけれど他の人は気にならない、ということがあったりします。そういう時に、「この表現はこういう考え方もできるから大丈夫じゃないか」と仲裁したりしつつ一つの方向に導いていただいた感じがあります。 池ノ辺 この作品の登場人物たち、つまりZ世代の恋愛観を知るためにリサーチもされたとか。 太田 いくつかの段階でリサーチがあって、僕が入った段階では、実際に現役高校生に来てもらって、インタビューするということはありました。そういう中で、今の高校生が誰かと連絡を取り合う時にどんなアプリを使うのか、知り合ったばかりの人にはLINEは教えないで、InstagramのDMでまずやりとりをする。そこでさらに仲良くなったら、そこでLINEを教え合う。今の高校生たちのコミュニケーションツールのリアリティを、そうしたインタビューなどで勉強していったという感じでした。 安川 脚本家も監督も、皆、高校時代からは離れてしまっているので、そうしたリサーチは大切でした。リサーチ資料を読みながら一つ一つ勉強していきました。 池ノ辺 皆さんさまざまな体験や学びをしながら「今までにない学園ドラマ」を作り上げていったんですね。配信が始まっているので多くの人が観ることになると思います。視聴者の皆さんに向けたメッセージをいただけますか。 太田 自分自身、結構いろんなことに無自覚に生きていたということに気づかされて、反省の日々です。もちろん、大人は大人で一生懸命生きているのですが、その中で「昔からそうだから」とか「そういうもんだから」ということで決められたことを無自覚に受け入れてしまってきたんじゃないか。この作品はそれに対して「ちょっと待って」と思う若者のストーリーに展開していくわけですが、実際の社会においても、自分の意見をちゃんと持つとか、今ある社会、そこにあるルールとか決まりごとに対する疑問をしっかり持つことはすごく大事だと思って、これはこのストーリーを彼らと一緒に作り上げていく中で自分でも気づけたことでした。これからもそうした疑問を大事に生きていきたいと思うし、観ている人のそうした気づきのきっかけになるような作品になったらいいなと思っています。 安川 「これはなんのためのルールなのか」と疑問を持つことなくそれに従ったり受け入れたりする方が楽で、そういう方を選びがちですが、本当にそれでいいのか。自分の行動ひとつで未来が変わることもあるんじゃないかと気づいていく物語だと思います。 また、撮影自体は決して順撮りばかりで進んで行ったわけではないんですが、ここで演じている皆さんが、物語が進んでいくにつれてどんどん変わっていく、意志の強さが表情に表れてきたりする。そうした物語とリンクする俳優さんたちの変化も、この作品の見どころだと思います。