ブランドの拡大から映画『グランメゾン・パリ』の料理監修まで、ミシュラン三つ星・小林圭シェフの視線の先にあるものとは?
次の世代への継承は、自身の果たすべき責任
「ファッションのグランドメゾンにたとえるとわかりやすい。オートクチュールがあってプレタポルテがあり、ジュエリー、フレグランスなどさまざまな部門があり、総指揮を執るアーティスティック・ディレクターの下、シーズンごとのテーマを表現する、というのを何年も続け、ブランドの哲学を継承していく。そのイメージです」 そこには、やはりゲストの存在が不可欠だという。 「やれ小林はビジネスに走っただとか言う人もいますが(笑)、そもそもレストラン自体がビジネスです。食事に来てくださるお客様がいなければ、1日たりとも成立し得ない」 支払われる代金に見合った商品とサービス──レストランであれば料理と食事を楽しむ時間、アパレルならばウエアやアクセサリーなどを提供したうえで、消えてなくなる物理的なもの以外にゲストの心に価値を残せるのがトップブランドだというのが小林シェフの考えだ。 「たとえば時計でも、車でも同じですよね。買ってくれるゲストがいて、初めて次のものをつくることができる。それを何年も、何十年、何百年も続けるうちに、たとえ時代やモデル、型が変わっても、変わらない核が継承されていく。センセーショナルはやがてクラシックになり、独自の文化を形成していく。そこまできて初めて、ゲストはものがもつ機能そのもの以上に、それが纏うもの、つまり美学や哲学に対価を払うようになる。これが、私が考えるブランドです」 ミシュランガイドでの三つ星もあくまで通過点。高い評価や賞賛以上に小林シェフが執着するものが継承だ。 「いまの自分があるのは、料理に、フランスに出会うことができたから。フランス料理という分野である評価をいただいたならば、もう自分のためだけに料理をすることはできない。次の世代への継承は、果たすべき責任であると感じています」 12月に公開される映画『グランメゾン・パリ』では、料理監修を務めている。リアルな調理シーンなどで料理関係者からの注目をも集めたドラマ『グランメゾン東京』の劇場版は、公開前から話題を呼んでいる。東京でのプロジェクトなど、これまで以上に多忙を極めた時期に大役を引き受けるに至ったのも、継承への想いからだ。背景には、飲食業界の慢性的な人材不足がある。 「映画を通じ、ひとりでも多くの若い人に、レストランでの仕事の魅力を伝えられたらと。もちろん簡単な仕事ではなく、修業は苦しく、なんなら私自身、いまも毎日苦しみもがきながら料理をしている。なにかが完成しても、数秒後には“もっとできたはず”と後悔する、その繰り返しなので。でもその先で、人の喜びをつかむことができる。ガストロノミーはアート。食欲ではなく心を満たすものですから」 ガストロノミーはアート。料理人は自らの手でつくり出したもので、人の心を動かせる、誇らしく、価値のある素晴らしい仕事である。メッセージは同じ。映画で、そして東京に誕生したレストランの場で、そこに集まるすべての人へ、まっすぐに訴え続けている。
ケイ・コレクション・パリ
住所:東京都港区虎ノ門2-6-2 虎ノ門ヒルズ ステーションタワー TOKYO NODE49階 定休日:水 https://www.kei-collection.com
文:佐々木ケイ 写真:宇多川淳
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