“カリスマ”辰吉丈一郎はWBSS決勝ドネア戦を控える井上尚弥の何を評価しているのか?
プロボクシングのWBA、IBF世界バンタム級王者の井上尚弥(26、大橋)がWBSS(ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ)の決勝(11月7日・さいたまスーパーアリーナ―)で対戦する5階級世界王者でWBA世界同級スーパー王者のノニト・ドネア(36、フィリピン)戦に向けて本格的なスパーリングをスタートさせている。その井上尚弥へ熱いエールを送るのが、バンタム級のカリスマ、元WBC世界同級王者の辰吉丈一郎(49)だ。平成の時代を作った男は、井上尚弥の強さをどう見ているのか。 井上尚弥と辰吉という時代を超えた2人のバンタム級の怪物は、実は、不思議な縁で結ばれている。辰吉が可愛がり、次男のプロボクサー、寿以輝(23)の親友でもある中澤奨(26)が、現在、大橋ジムに所属しており、その中澤と井上尚弥がアマチュア時代の先輩後輩という“友達の輪”。井上尚弥も父でトレーナーの真吾さんも「天才」と辰吉をリスペクトしており、自らの結婚披露宴にも招待している。 井上尚弥は、その辰吉が作ったプロ4戦目での最速日本王座奪取記録にも並び、辰吉、名城信男が持っていたプロ8戦目の最速世界王者記録を抜きプロ6戦目でWBCライトフライ級のベルトを腰に巻いた。 比較される機会が多かった当時から辰吉は、井上尚弥を認めており、2016年の年末に有明で行われた河野公平とのWBO世界スーパーフライ級王座のV4戦はリングサイドに足を運んで観戦。 「井上君はうまい。アマチュア経験が豊富だし、どっちが年上でキャリアがあるのか、わからないような試合だった」と語っていた。 あれから3年。 先日、寿以輝のプロ12戦目の試合を見守っていた辰吉に、バンタム級に上げ、さらに怪物ぶりに磨きがかかってきた井上尚弥についての話を聞いてみた。 「ほんま強いな。もちろんパンチがあるんやけど、それ以上にセンスがあるんよ。ボクシングには、そこで打てば一番パンチが利くというタイミングとポジションがある。相手からすれば、ここで打たれたら一番ダメージをもらうという場所やね。井上君は、その場所とタイミングを瞬時にして見つけて、そこからパンチを打つというセンスが優れているんよ。うちのコンビネーションも同じ。うちも一発のパンチ力はあるわけやないから、その場所を探してコンビネーションを打っていた。やみくもに連打を打っていたわけとちゃうから。そこが井上君の強さやろな」 昨年10月のWBSS1回戦の元WBA世界同級スーパー王者のファン・カルロス・パヤノ(35、ドミニカ共和国)との試合は70秒でケリをつけたが、左のジャブを体をずらした位置から角度を変えて内側からヒットさせ、相手が反応して反撃に出てくるところに死角から右のストレートをカウンターで合わせてKOで葬った。 WBSS最大の難関と言われたIBF世界同級王者、エマヌエル・ロドリゲス(26、プエルトリコ)との準決勝では、恐れずプレスをかけてきた相手と1ラウンドは互角のカウンターの応酬となったが、2ラウンドに入ると井上尚弥は、即座に対応。重心を落とし、前後にステップを踏んで距離を作り、内側からねじこむようにして伸ばしたショートストレートで粉砕。立ち上がったロドリゲスに左右のボディ攻撃で血祭りにあげた。 辰吉の言う通り、なるほど、そのKO劇は、力任せのパンチ力に頼ったものではなく、“神の域”にあるタイミングとポジション(距離)の妙があった。