“カリスマ”辰吉丈一郎はWBSS決勝ドネア戦を控える井上尚弥の何を評価しているのか?
観察力と察知力に優れ、瞬時に、その場所を見つける能力は確かにセンスに違いない。それは過酷な練習と3階級を制覇した濃厚な18試合の中で身につけてきたものである。 米の専門誌の「ザ・リング」がパウンド・フォー・パウンド(階級がなかったと仮定してのランキング)の4位に井上尚弥を評価するにも当然だろう。 さてドネアとの決勝戦である。 辰吉は、「そりゃ井上君やと思うよ。でもドネアは5階級制覇やろ? そのタイミングとポジションを読むキャリアがある。(ポイントは)そこやろね」と予想した。 井上尚弥が警戒するのも、そのキャリアとWBSS準決勝では、WBO世界同級王者のゾラニ・テテ(31、南ア)の代役出場となったWBA世界同級5位のステフォン・ヤング(30、米国)を6回に一発で沈め、健在ぶりを示した伝家の宝刀の左フックである。 ドネアは全盛期の2011年に、長谷川穂積氏との事実上の統一戦にKOで勝ったフェルナンド・モンティエル(40、メキシコ)を“フラッシュ(閃光)”と評されるカウンターの左フックで2回に沈めているが、井上尚弥は、かつて、その左フックのカウンターのタイミングを必死に盗んでいたことがあった。 「ドネアは左フックを当てるのが得意中の得意。それで勝ってきている。キャリアがあり、当て勘がある。それだけには気をつけたい。でも、なぜ左フックが当たるかはわからない。それは、おそらくリングに上がるまででわからないと思う。リングに上がって自分と対戦してどう変わるか。映像を見て対策を練っても、対戦相手が変わると、そこが変わってきますからね」
ここ数試合は、ドネアは衰えが目立つが、左ボディを左フックへつなげるための餌として多用。上下の打ち分けに工夫が見え、そのタイミングと距離を磨いている。 そのドネアの実父でトレーナーであるノニト・ドネア・シニア(60)も、WBSS決勝のポイントについて「先にパンチを当てた方が勝つ。早く決着がつく。12ラウンドはかからないだろう。井上は若いし速い。でも、耐久性を問われる試合になる」とコメントしていた。 ドネア父が言いたかったのは、「自分のタイミングと距離を先につかんだ方が勝つ」という勝負のポイントなのだろう。「ザ・リング」もドネア特集の記事の中で「ドネアはバンタム級で負けたことがない」と記している。 だが、どう考えても井上尚弥が敗者となる姿は想像できない。 “カリスマ”辰吉が絶賛した井上尚弥のセンスが炸裂するのは、ゴングから何秒後になるのだろうか。大橋ジムには、決勝戦のチケットの問い合わせが殺到しているが、今月末には発売がスタートする予定だという。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)