93歳の介護職員が「認知症は人にやさしい」と考える理由とは。「その人が今この時だけでも安心し、落ち着いた時間を過ごせるよう考えていきたい」
内閣府が公表する「令和5年版高齢社会白書」によると、令和2年度の65歳以上の要介護者数は平成22年度から約178万人増加し、特に75歳以上で割合が高くなっているそう。誰もが要介護者になり得る「超高齢化社会」の昨今ですが、特別養護老人ホーム「山城ぬくもりの里」顧問の細井恵美子さんは、93歳で現役の介護職員として働いています。そこで今回は、施設利用者に日々寄り添う細井さんが書き下ろした自著『93歳、支えあって生きていく。』から、毎日を明るく楽しく生きていくための心得を一部お届けします。 【写真】施設を利用する高齢者に寄り添う細井さん * * * * * * * ◆不安に揺れる感情に寄り添う 認知症とは社会とのつながりがなんらかの事情で途切れてしまったり、少しかみあわなくなってしまった状態のように思います。 そしてその世界はなにも答えがなく、もどかしく、一寸先もわからない不安を伴い、恐ろしく感じられる世界なのだろうとも考えます。 その人の心の深層は見えませんが、ともに悩み、悲しみ、その不安に揺れる感情を、今この瞬間だけでもおだやかな気持ちに戻し、ほっと気を抜いて過ごしてもらえたら─そう思いながら、寄り添っています。 細胞が壊れて、うまく普通の生活とつながらなくなった状態でも、不安や怒り、喜びの感情は残っています。 その感情がさまざまな形になってその人の前に現れ、その人の心を揺さぶっている─そう思いやりながら話を聞きます。 その場に適した言葉を選び、その人の気持ちに近づくように考えます。
◆今この時だけでも安心して、落ち着いた時間を過ごせますように。 すると時々、自分でも驚くほどしっくりその心のひだに入り込み、その人の満面の笑みを見ることがあります。その瞬間の私自身の喜びは格別です。 今食べた食事のことも忘れてしまう人も、その瞬間はうれしそうに「ありがとう」と返事が返ってきます。 難しいコミュニケーションですが、自分の気づきを否定したり、あきらめたりしないで自然のままに。 前向きに考え、その人が今この時だけでも安心して、落ち着いた時間を過ごせるようにと考えていきます。
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