93歳の介護職員が「認知症は人にやさしい」と考える理由とは。「その人が今この時だけでも安心し、落ち着いた時間を過ごせるよう考えていきたい」
◆「認知症」という言葉に至るまでの歴史 認知機能障害をもたらす病気にアルツハイマー型、レビー小体型、脳血管性、前頭側頭型、水頭症ほか、さまざまな原因による症状があることがはっきりしてきました。 それでも今はまだ「認知症」という呼び方が一般的に使われていて、当事者の気持ちを暗くしているのではないでしょうか。 私が看護師になった昭和23年ごろは認知症とは呼ばず、認知機能に障害のある方は「痴呆(ちほう)」「ボケ」などと呼ばれていました。 やがて作家の有吉佐和子(ありよしさわこ)さんが、認知障害のある男性への厳しい介護について描いた小説『恍惚(こうこつ)の人』を出版され、映画やテレビにもなって、社会の目が向けられるようになりました。 そして平成元年に「高齢者保健福祉推進十カ年計画」が策定されると、ヘルパーが各家庭に出向くようになり、今まで隠れていた痴呆(ちほう)の人と暮らす家族の悲惨な実態が明るみに出るようになり、平成17年の「地域包括支援センター」の制度化とほぼ同じ時期に、「痴呆(ちほう)」という言葉は「認知症」に変わりました。 この様に、「認知症」という言葉に至るまでには、さまざまな歴史があるのです。 ある時、初期認知症の男性が「私たちには病名があるのだから、認知症とはいってほしくない」といわれたことがありました。当事者にすればもっともなことです。 このこともあって、私はかねがね医学的にやむを得ない場合を除いて、認知症という言葉はできるだけ使わないようにと考えています。
◆命が終わる時のおだやかな表情─人にやさしい認知機能障害。 認知障害はほとんどの人々にやってきます。 その症状が現れる年齢は一律ではありません。 しかし命が終わる時、痛みや悩みのために苦しまず、すべての認知機能を手放して仏様のような表情で旅立つことができるのは、認知機能の末期状態がもたらす、しあわせで安らかな死だと私は考えます。 認知症は、実は人にやさしい症状なのです。 ※本稿は、『93歳、支えあって生きていく。』(Gakken)の一部を再編集したものです。
細井恵美子
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