ともにデビューした二人の小説家の「友情」がきりひらいていく、小説の「美しさ」と「楽しさ」
電撃小説大賞(KADOKAWA)から同時期にデビュー、現在も頻繁にメッセージのやり取りをしているという野﨑まどさんと綾崎隼さん。今秋にはそれぞれの新作小説『小説』『冷たい恋と雪の密室』が刊行されました。それにあわせ、15周年と最新作刊行を記念した久しぶりの対談が実現! 【写真】デビュー15周年を迎えた同期二人の対談 『小説』『冷たい恋と雪の密室』の感想を交わしあうなか、今回の対談が実現した理由も明らかに……? (この対談は8月、講談社にて行われました) 【前編】「変わってるふり」では敵わない、同期の「頭のネジ」の飛び具合……デビューから「15年」が経ってもかわらない「絆」 はこちらから 【聞き手・構成】 あわいゆき
原点に立ち返った、「誠実」な恋愛小説
──そして受賞から十五周年を迎えた二〇二四年、野﨑さんは『小説』(講談社)、綾崎さんは『冷たい恋と雪の密室』(ポプラ社)をそれぞれ刊行されました。 野﨑:綾崎さんの新作を読んで、綾崎さんはやはり恋愛小説のひとだと感じました。「恋愛」というかたちのないものを長編の分量で描き切るのは年をとるほど大変になると思っているので、羨望の眼差しで見てしまいます。 綾崎:僕も年を重ねるにつれ、若いひとたちの恋愛模様を書いていくことに違和感を抱くようになっていました。だから恋愛要素が混ざってくる作品こそあれど、ストレートな恋愛小説を書いたのは実のところ久しぶりだったりします。 ──『冷たい恋と雪の密室』は、原点の「花鳥風月」シリーズに立ち返ったような印象も受けました。 綾崎:ラブストーリーが軸にあって、ミステリとしても楽しめるようになっているのは確かです。今回は運行が止まった電車に閉じ込められてしまうワンシチュエーションの舞台に挑戦しながら、武者小路実篤の『友情』を下敷きにした男女の三角関係を描いています。 野﨑:三角関係は作家によってまったく違うアプローチをされているので、読んでいて面白いです。綾崎さんの作品からは、フィクションでしか描けない人間の美しさを強く感じます。浮世離れしていて、理想郷のようだと思いながらも目が離せない。 綾崎:僕はふだん、フィクションの恋愛小説を読んでも共感できないことが多いんです。それは道徳的にどうだろうか、あまりにも不誠実ではないかと事あるごとに考えてしまって……。僕が小説を読んでいるときに嫌だなと思うことは書きたくないし、信じているものを書いていきたい。その結果、まどさんの言う美しさがうまれているのかもしれません。 野﨑:皆、「誠実に生きよう」と思っていても、実際のところ誠実さを貫けるひとはほとんどいない。だからこそ誠実な人間が存在するならファンタジーに近くなるのでしょう。ただ、それでもフィクションのキャラクターには誠実であってほしい──そういった強い願いを、綾崎さんの作品からは感じます。 綾崎:その通りなのかもしれません。『友情』の杉子も『冷たい恋と雪の密室』の千春も、多くのひとからすれば言動のたがが外れているのかもしれないけれど、僕は怖いとも気持ち悪いとも感じない。誠実でかっこいいと思う。 ──野﨑さんのおっしゃる通り、綾崎さんの描く登場人物からは、誠実であろうとする気高さを常に感じます。 野﨑:逆に気高さのある世界を舞台にすれば、ちょうどよくなるのかもしれない。 綾崎:最近『愛の不時着』を観て、日本の外では現代でもいわゆる「禁断の恋」が成立するんだ、と気づきました。現代の日本を舞台に禁断の恋を描くのは難しくて、説得力を持たせて成立させるためには時代を遡るだったり、何か一工夫が必要だと感じます。気高い人間を登場させやすい舞台設定で恋愛小説を書いてみたいとは思いますね。