ともにデビューした二人の小説家の「友情」がきりひらいていく、小説の「美しさ」と「楽しさ」
15周年を迎えてもまだまだ尽きない、「読んでみたい」願い
──今後も小説を書かれていくなかで、お互いに読んでみたい作品はありますか。 綾崎:まどさんは発想力が他のひとと比べても段違いで、いつも想像していない地点に連れていってくれます。だから逆に、ドラマ『王様のレストラン』のような狭い箱のなかで起きる、シチュエーションコメディを読んでみたいです。 野﨑:僕がいま想像したなかで、箱の大きさが決まっているものは般若心経でした。文字数が定められていて、文字をどこに当てはめるかも決まっている。 綾崎:そうした箱のなかで、まどさんの持っている小説の技術と演出の力が加われば、とても面白い作品になりそうな気がします。 野﨑:では、持てる力を振り絞って素晴らしい般若心経を書こうと思います。 綾崎:いえ、そういうことではありません。 野﨑:僕は綾崎さんの小説に対して、美しいところが美点だと感じています。だからもっと美しくなっていき、絵画のような小説を書いてほしい。プロットや仕組みを褒めるのではなく、もう美しいからそれでいいじゃないか、と思わせられるような作品を読みたい。綾崎さんなら人間の美しさを徹底的に描いてくれそうな予感がします。 ──野﨑さんは恋愛小説を書かれないのでしょうか。もしくは「恋愛」についての小説でも。 野﨑:『2』のあとがきで「これは恋愛小説っぽいですよね」という旨は書いた気がします。ただ恋愛について書くには、いかんせん取材不足で……。プレイボーイな人生を送ってきたわけでもないし……。 綾崎:「恋愛」についての小説、いいですね! 僕もいつか読んでみたいです。 野﨑:僕が恋愛の小説を書くには、取材をどうこなしていくかが鍵になりそうです。 ──綾崎さんは逆に、『小説』というタイトルで小説を書くとしたらどんな内容にしたいですか。 綾崎:実は『冷たい恋と雪の密室』は当初、『恋愛未満小説』というタイトルで刊行したいと考えていたんです。その仮タイトルはあいにく没になってしまったのですが……。だからある意味では、最新作を読んでいただくのが答えに近くなるのかもしれない……そうだ、思い出しました! ──いったいなにを思い出したのでしょう。 綾崎:なぜ今日この場所で対談をしているのか、です。昨年秋にまどさんとお会いしたとき、タイトルに「小説」とつく作品がお互い刊行されるかもしれないと盛り上がりました。もしかしたら「小説現代」であれば面白がって記事にしてくれるかもと思い、河北編集長に声をかけたんです。でも年が明けても一向に、まどさんの刊行予定日がわからなくて! 野﨑:今年の前半は幸せについて考えていたので。とどのつまり、あまり働いていなかったということ。 ──なるほど。今日は無事に対談が叶ってよかったです。 綾崎:公にできないようなまどさんとのエピソードも、まだまだたくさんあるんですよ。多すぎて語りきれない。 野﨑:そうですね。いまは自宅の裏にイノシシがやってきてタケノコが危ないので、綾崎さんと一緒にタケノコを売ろうかと画策していて……。 ──そのエピソードはカットになりそうですが、本日はありがとうございました! (二〇二四年八月、講談社にて) 野﨑まど(のざき・まど) 1979年、東京都生まれ。麻布大学獣医学部卒業。2009年『[映]アムリタ』で第16回電撃小説大賞「メディアワークス文庫賞」の最初の受賞者となりデビュー。2013年に刊行された『know』で第34回日本SF大賞・第7回大学読書人大賞それぞれの候補、2021年『タイタン』で第42回吉川英治文学新人賞候補となる。2017年テレビアニメーション「正解するカド」でシリーズ構成と脚本を、2019年公開の劇場アニメーション『HELLO WORLD』で脚本を務める。「バビロン」シリーズは2019年よりアニメが放送された。 綾崎 隼(あやさき・しゅん) 1981年、新潟県生まれ。2009年に第16回電撃小説大賞選考委員奨励賞を受賞し、『蒼空時雨』で翌年デビュー。著書に「花鳥風月」シリーズ、「ノーブルチルドレン」シリーズ、『それを世界と言うんだね』『この銀盤を君と跳ぶ』など多数。2021年刊行の『死にたがりの君に贈る物語』で小説紹介クリエイター・けんごが選ぶ「ベストオブけんご大賞」を受賞し大きな話題を呼ぶ。恋愛とミステリを組み合わせた独自の作風で、10代20代の若者を中心に熱狂的な支持を得ている。
あわい ゆき(書評家・ライター)