「ケーキは“幸せ必需品”」 新型コロナ禍の「母の日」、押し寄せた行列に涙した京都の洋菓子ブランド「マールブランシュ」社長
京都土産として大人気の洋菓子ブランド「マールブランシュ」。運営する株式会社ロマンライフの河内優太朗氏(40)は、2013年に先代から「10年後に社長就任」を言い渡され、大型店舗兼本社の建設プロジェクトなど責務ある仕事を推し進めてきた。2020年、新型コロナ禍が到来し、「不要不急の嗜好(しこう)品」と思われた洋菓子はピンチに。しかし、河内氏は、そこで原点を思い起こさせる出来事に出会う。コロナ禍で痛感したケーキ作りへの思いや、事業を継ぐことの意義を、河内氏に聞いた。 「親父、こんなに苦しかったのか」就職先の銀行で知った家業の低い評価
◆先代社長が涙した「コロナ禍の大行列」
――新型コロナ禍真っただ中の2020年3月、京都市内でデリバリーサービスを開始し、話題を呼びました。 京都発祥のパンの移動販売「ロバのパン屋さん」がヒントになりました。お菓子を車に積んで、懇意にしている会社の駐車場で販売したのです。大きな反響をいただいただので、専用の移動販売車を作り、お客様に届けるスタイルに進化させました。 ――どういった反響がありましたか。 「このケーキ、食べたかったんです」「外出自粛で自宅から出られないのですごくありがたい」と大変喜んでくださいました。 コロナ禍で「不要不急」が叫ばれていましたから、「嗜好品のお菓子は真っ先に切られてしまう」とものすごく不安だったんです。でも実際は、こんなにも求められていた。我々にはまだ役割があるんだと感激しました。 忘れられないのは2020年の母の日です。移動販売車にワーッとお客様が押し寄せて、ものすごい行列ができたんです。父がその光景に涙していて……。 でもケーキが一瞬で完売してしまったので「泣いている暇はないから!」と発破をかけて、遠くの工場までケーキを補充しに行ってもらいました。あの1日だけで120件以上デリバリーしました。 ――「幸せ必需品」と理念に掲げていますね。 まさにコロナ禍の経験から生まれた言葉です。祖父が純喫茶「ロマン」を開いたのは“本当に幸せな時間”を届けるためでした。 高度経済成長期で景気は上向いていたけれど、真の幸福は「一杯のコーヒーとケーキを楽しみながら過ごす、ゆったりとしたひと時」にあるのではないかと。私たちがお客様に提供しているものの核は40年間変わっていない。母の日の行列があらためて「創業の原点」を思い出させてくれました。