「ケーキは“幸せ必需品”」 新型コロナ禍の「母の日」、押し寄せた行列に涙した京都の洋菓子ブランド「マールブランシュ」社長
◆トップダウンから「全員経営」へ
――2023年8月、代表取締役社長兼COOに就任されました。経営者として先代と相通じる点と、異なる点を教えてください。 通じるのは、安価でリーズナブルなものより、それなりの価格でも高いクオリティのものを送り出したいという精神です。 祖父も父もオリジナリティを大事にしてきました。「京都の洋菓子屋」というオンリーワンの存在であることにこだわり続けたいです。 相違点は経営スタイルですね。父はトップダウンに近く、スピーディーに経営判断をくだして事業を展開していました。 一方、私は父が築いてくれた経営基盤のもと、働く「人」に焦点を当て、彼らの成長によって会社を発展させていきたい。 従業員の声をキャッチアップする能力は自分の誇れる点です。 ――どのように従業員の声を集めていますか? 毎月の社長朝礼で、私からのアウトプットは短くし、従業員たちにワンテーマでじっくり話し合ってもらいます。 トップメッセージを一方的に浴びるより、その中で気付いたことを咀嚼し、整理してもらう時間こそ大切だろうと。 また、中期の経営方針書を作るにあたり、現場に近い部門長やミドル層などの声を取り入れるべく合宿を始めました。みんなアツいんですよ(笑)。 多様な意見から共通点を見出してビジョンを練り上げるのは時間がかかりますが、幅広い世代が社の未来を「自分事」として捉える機会になっています。 ――合宿で見えてきた課題や対策はありますか? ジョブローテーションですね。「部門を超えて人事異動や交換留学をしたい」との声を受けて今期から実施しています。 分業化した組織を「洋菓子屋さん本来の在り方」に戻す試みでもあります。小さな店舗では、パティシエが販売スタッフも兼ねるのは珍しくない。「全員経営」を目指して今後も力を入れていきます。
◆祖父の墓前で「かっこいい会社にした」と胸を張りたい
――これからの展望を教えてください。 洋菓子ブランド「マールブランシュ」が擁する25万名の会員数を、倍の50万名に押し上げたい。 そのためには「食」を中心とした多角的なライフスタイル提案が必要だと考えています。 オリジナルの紅茶を皮切りに、いずれはドレッシング、カトラリーなども展開し、お客様とのタッチポイントを増やしていく計画です。 モデルは、イギリスのデパート・フォートナム&メイソンの「ハンパー」です。 カゴに様々なものを入れて贈る文化で、例えばお酒好きな方にはワインとそれに合うスイーツ、ワイングラスを詰め合わせる。 将来、ロマンライフにしかできないギフトを展開したいですね。 ――事業承継に臨む方に伝えたい「やっておくべきこと」は何でしょうか? ひとつは「会社の歴史を自分で整理する」。アーカイブとなる写真を集め、歴代のトップにヒアリングする。 私も祖父へのインタビューを通じて、どんな理念や覚悟をもって事業をやってきたかが自分の中に深く入ってきました。 もうひとつは「先代が学んだことを学ぶ」。父が参考にしていた方の講演DVDを観て、経営スタイルをいかに確立したかを勉強しました。 父の軸がわかると「だからこの選択をしたんだな」と筋道がクリアに繋がるんです。 ――弟の河内康太朗さんが常務取締役を務められていますが、兄弟経営の難しさはありますか? 私が洋菓子、弟は飲食と事業を分担することで、非常にうまくいっています。父が「息子が2人いるから」と2つの事業を育ててくれたおかげですね。 父は「経営者を社内に3人作る」ことを目指していて、本当はもうひとつ事業を作って譲りたかったと退任時に話してくれました。次世代の3人と語り合うのが自分の夢だったと。 ――ご自身の事業承継のビジョンを教えてください。 4代目に譲るとしたら数十年後ですから、その時には亡くなっているであろう祖父の墓前で「こんな会社にしましたよ」と胸を張って語りたい。 次世代に「働く姿、イケてるな。継ぎたいな」と感じてもらえるカッコいい会社、カッコいい人間にならないとあかんですね。
■プロフィール 株式会社ロマンライフ代表取締役社長兼COO・河内優太朗氏 1984年5月26日生まれ。2007年、同志社大学商学部卒業後、銀行で法人営業を担当し、その後某上場企業の総務法務部にて1年勤務。2010年に株式会社ロマンライフに入社し、製造部門やマールブランシュ京都北山本店の店長勤務などの現場業務に従事。2018年には常務取締役となり、2020年にオープンしたマールブランシュロマンの森の事業計画の中心人物として奮起。2023年8月より現職。
取材・文/埴岡ゆり