人工林の多様性を左右する除伐・つる切、悩ましいつるの二面性〈材質低下・労働災害と民芸品材料・花や葉の自然美〉
日本で最も広大な人間の創造物である人工林。それは、植付での工夫から始まり、過酷な下刈へと続くことを前回「〈熱暑の下刈が最大の試練〉山村の女性が作り上げた人工林、過酷な作業の改善は柔軟な発想から」で紹介した。 【写真】つるに巻かれた造林地 植付から5~6年間、毎年夏季に下刈を繰り返した効果で、造林木が雑草木の上に伸びて負けないようになると下刈は終了で、約10年生までそのままおいておく。10年生になると、また広葉樹が伸びてきて造林木と競合するようになるので、今度は生育を妨げる樹木を刈り払う除伐を実施する。 除伐の適期は、夏季でなく秋から冬である。この時期だと除伐木の成長が休止に向かうので、除伐後に萌芽・再生しにくくなる。また、夏季は造林木の樹皮が剥げやすくて除伐木が当たると傷になりやすい。 除伐は、下刈と違って楽しい作業である。季節は涼しく快適である。そもそも、造林作業は単純な肉体労働で面白くないように思われるだろうが、大自然の中での地形の変化に対応しながら、鎌や鉈(なた)を振って、存分にきれいな空気を吸って汗をかく。爽快さ抜群、ストレスは雲散霧消する。 これを体験すれば、上司の顔色を伺いながら室内でする事務などと比ではない。人間本来の野性を取り戻す。雑木に埋もれた造林木を刈り出すと、造林地が見違えるようになって達成感がある。仕事でも楽しいのだから、ボランティアの対象作業としては最適で、みんなに喜んでもらえる。
道具は、下刈時よりも太くなった広葉樹が対象なので、造林鎌より肉厚で丈夫な除伐鎌、柄鎌(えがま)、手鋸(てのこ)を使用する。鎌の刃を幹に対して斜めに入れると、伐りやすい。勢い余って足を切る恐れがあるので要注意だ。 真横に振ると力がいる。さらに太いものは手鋸を使う。広葉樹は、切り口から萌芽が再生するが、手鋸で伐った方が再生力は落ちる。切れない刃物で切った傷が治りにくいのと似ている。 除伐は、15年生ぐらいで2回目を実施する。そうするうちに造林木の林冠(森林の上部の樹木の枝葉同士が集まった部分)が鬱閉(うっぺい)して林内は暗くなる。林床(森林の地表面)に光が届かなくなると雑木が育たなくなり、保育作業は卒業となる。