世界中で高まる「データ主権」要求 HPEの“ソブリンクラウド”の特徴は
Hewlett Packard Enterprise(HPE)が「ソブリンクラウド」ソリューションを発表した。「HPE GreenLake Cloud Platform」のdisconnected(分離)モードを用いて、各国のサービスプロバイダーがソブリンクラウドを提供できるというものだ。 【もっと写真を見る】
Hewlett Packard Enterprise(HPE)が「ソブリンクラウド」のソリューションを発表した。「HPE GreenLake Cloud Platform」のdisconnected(分離)モードを用いて、各国のサービスプロバイダーがソブリンクラウドを提供できるというものだ。 HPE GreenLake Cloud Platform disconnectedは、データセンター内で、インターネット/クラウドから分離されたクラウドライクなシステムを実現する。 HPEのグローバルバイスプレジデントでサービスプロバイダービジネスを担当するグザヴィエ・ポワソン(Xavier Poisson)氏は、同ソリューションを「機密性の高い情報をあつかう企業などに適している」という。金融機関ではサイバー攻撃対策として、瞬時にdisconnectedにしたいというニーズもあるそうだ。 ただし、HPEが提供するGreenLake Cloud Platform disconnectedそのものは、パブリッククラウドに接続したくないというニーズだけを満たすものであり、データの所在地や主権(ソブリン性)を保証するものではない。 ソブリンクラウドは、各国のサービスプロバイダーにより提供される。具体的には、HPE GreenLake Cloud Platform disconnectedとHPE Private Cloud Enterpriseを組み合わせることで、特定地域でのみ利用できるクラウドを提供する。エンドユーザーは、インターネット/パブリッククラウドではなく、HPE GreenLake Private Cloud Enterpriseに接続。データのソブリン性は、データプラットフォームの「HPE Ezmeral Data Fabric」などを活用することで確保する。 このソブリンクラウドの特徴は、ゼロトラスト、マルチベンダーのオブザーバビリティ、オーケストレーションなどが挙げられる。ゼロトラストは、独自のiLOシリコンにセキュリティロジックを埋め込んだ「Silicon Root of Trust(シリコンレベルの信頼性)」などにより実現。オブザーバビリティは、IT 運用管理SaaS「OpsRamp」を利用することでHPE以外のシステム監視も可能だという。 しかし、どのサービスプロバイダーでもソブリンクラウドを提供できるわけではない。HPEは「Partner Ready Vantage」というプログラムを用意しており、現在はソブリンクラウドを構築するパートナーの要件を定義しているところだ。ポワソン氏によると、ネットワークに関する要件のほかに、サポート人員をローカルに置くといった要件が追加される見込みだという。 HPEはすでにソブリンクラウドで実績がある。これまで固有のニーズに対して、IaaSの「HPE GreenLake Flex」でソブリンクラウドを構築してきた。今回のソリューション展開で、「HPE GreenLake Cloudで提供する機能やサービスも利用できるようになる」とポワソン氏。 HPEのCEOであるアントニオ・ネリ(Antonio Neri)氏は、ソブリン環境でのネットワークを米政府向けに提供していることも触れた。具体的には、HPE GreenLakeのネットワーク向けコンソールである「Aruba Central」をdisconnectedモードで提供しているという。また、英国政府はブリストル大学を通じて、英国向けのAIクラウドの構築を進めており、HPEは技術パートナーとしてスパコン「HPE Cray EX」などを提供する。 HPEのシニアバイスプレジデントでプライベートクラウド担当ゼネラルマネージャーのシェリ・ウィリアムズ(Cheri Williams)氏は、「セキュリティ、コンプライアンス、規制要件により、インターネットから切断されたモデルでの運用を必要としている顧客は多い」と話す。パートナーがソブリンクラウドを構築できるという点では、Oracleには「Oracle Alloy」があり、Amazonなどクラウド事業者(ハイパースケーラー)もソブリンクラウドを構築している。「差別化のポイントはコントロールプレーン」とウィリアムズ氏。「ハイパースケーラーのソブリンクラウドはクラウドから出発しているが、HPEは“プライベートクラウド”から出発しており、プライベートクラウドの豊富な機能を提供する。顧客はそれを包括的に管理・運用できる」と強調した。 中東、アジアなどでもニーズはあるとのことだが、やはり地理的に見て、ソブリンクラウドを求める顧客が多いのは欧州だ。発表の場も、欧州のイベントが選ばれた(HPE Discover Barcelona 2024)。会場ではフランスのサービスプロバイダOrange Businessが、HPEとの連携拡大によって、HPE GreenLake Private Cloudの技術でソブリンクラウドを構築していることを発表した。 Orange Businessの最高トラスト責任者のナシマ・オーヴレ(Nassima Auvray)氏は、「これまでのプライベートクラウドベースのソブリンクラウドとは異なり、拡張性が高い」と説明。「(技術に加えて)HPEの社員はデータセンターには入らず、データにアクセスできないといった我々の要件を満たしていた」と評価した。 調査会社のIDCでは、ソブリンクラウド市場は2022年から2027年まで年率26.6%で成長し、2027年には2585億ドル市場に達すると予想している。 IDCでワールドワイド・デジタル・ソブリン担当リード・アナリスト 兼 欧州クラウド担当リサーチ・ディレクターを務めるラヒエル・ナシール(Rahiel Nasir)氏は、「AWS、Google Cloud、Microsoft、Oracleといった主要なパブリッククラウドベンダーはここ数年、ソブリンクラウドのソリューションを開発し、データ管理と透明性の向上を求める声に応えている。欧州はデジタル環境について厳しい規制があるため、これらのソリューションの主なターゲット市場となっている。IDCでは、規制産業分野だけでなく、世界中でデジタルのソブリン性に関するさまざまな側面からの需要が高まっていくと見ている」と述べた。 文● 末岡洋子 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp