たった「10億分の1秒」で、この世界のすべてが爆誕…!138億年前の宇宙で「物質が生まれた瞬間」
火の玉の中でおきた「2つの粒子の衝突」
この火の玉の中で、2つの粒子が衝突して、より重い元素を一歩一歩つくる反応を起こします。 まず、宇宙の年齢が約3分になるまでに、陽子と中性子が衝突して重水素をつくるようになります。そして、つくられた重水素と重水素が衝突して三重水素もしくはヘリウム3(陽子2個と中性子1個からなる)をつくり、三重水素もしくはヘリウム3と重水素が衝突してヘリウム4(陽子2個と中性子2個からなる)をつくります。三重水素は放射線(ベータ線)を出して崩壊してヘリウム3をつくります。ここまでが約5分で完了します。 続いて、ヘリウム4に三重水素やヘリウム3が衝突することにより、リチウムやベリリウムなどのさらに重い原子核がつくられました。ここまで、約10分です。このようにして、宇宙全体で核融合反応が次々と起きたのです。ベリリウムは、150日後にリチウムに崩壊します。こうして、宇宙全体でリチウムまでがつくられます。 恒星の中のようなもっと高密度の環境ならば、2つの粒子が衝突する核融合反応によってさらに重い元素もつくられたかもしれませんが、ビッグバン直後の宇宙全体の密度では、ここまでです。この宇宙初期の元素合成は、「ビッグバン元素合成」と呼ばれます。 ヘリウム4は、ビッグバン元素合成によってつくられる元素の中でもとても安定であるため、元素の重量比にして実に約4分の1という多くの量が合成されるのです(約4分の3は水素です)。宇宙の年齢が約1秒のとき、中性子の数は陽子の数の7分の1でした。宇宙にある中性子がほとんどすべてヘリウム4に取り込まれると仮定して計算すると、合成されるヘリウム4は、重量比にして元素全体の4分の1となります。理論的に導き出されたこの値が、観測データと完全に一致するのです。このことからビッグバン元素合成は、ビッグバン宇宙モデルを支える3つの観測事実の1つとなっています(他の2つは、宇宙膨張と宇宙マイクロ波背景放射の存在です)。 さて、とても皮肉ですが、昨今あらゆる電子機器に使用されているリチウムイオン電池に用いられるリチウムは、実はビッグバン元素合成が主な源ではありません。その多くは、高エネルギー宇宙線陽子などによる、恒星の表面での炭素、窒素、酸素の破壊によってつくられた成分なのです。つまり、太陽系が生まれるもっと前に存在していた恒星の表面でつくられたリチウムが、その恒星の死後、他の元素とともに45.4億年前に地球に取り込まれたのです。 そうした複雑な元素の起源のバリエーションが生まれる理由は、われわれの太陽系が銀河系の円盤部分に誕生したことにあります。銀河の円盤部は宇宙線の量が多く、また、頻繁に恒星が生死を繰り返す環境だったのです。 * * * さらに「宇宙と物質の起源」シリーズの連載記事では、最新研究にもとづくスリリングな宇宙論をお届けする。
高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所