「入団時は1年でクビになるとも思った」元日本代表・岡崎慎司の恩師が明かす「19年間やれた理由」
エスパルス時代、大学の陸上部の練習に誘うと来たのは岡崎だけだった
1月下旬の時点で本人はSNSで「まだプレーをする」と記しており、揺れる思いを抱えながら、徐々にタイミングを定めていったことがうかがえる。プロ生活をはじめた1年目から19年間岡崎をずっと見てきたお互いの得難い信頼関係があったからこそ、打ち明けられる胸の内があったのだろう。 「選手としての岡崎って、あの可愛らしい、面白いキャラなのでどこか過小評価されがちですけど、みんなもっと持ち上げて引退させてあげてほしいなと思うんです。代表でも、マインツでもレスターでも、主力として結果を出し続けましたよね。だから彼の実績はもっと評価されるべきだしちゃんとレビューしないといけないんじゃないかと思います。 プレーを振り返ると、いわゆる泥臭いイメージはエスパルスに入った最初の3、4年くらいでそのあとのプレーはかなり洗練されているものだったと思います。エスパルスに入った時は、多分1年でクビになるんだろうなと思うくらいの選手でした。でも、なぜかサテライトの試合なんかでも得点に絡むんです。泥臭さとか、根性ではない感覚が多分そこにはあったんです。その感覚に加えて、真面目で一生懸命な人柄があった。 ある時、エスパルスの選手を僕の指導していた浜松大学陸上部の練習に誘ったら、来たのは岡崎だけだったんです。そうなるとこちらも愛情を注ぐに決まっています」 当初はエスパルスのコーチとして、のちには個人契約し走力に特化したトレーニングを岡崎に行ってきた杉本氏は、岡崎の技術を高く評価している。 「彼の場合50m走はどのチームにいてもビリですよ。エスパルスでもそうだし、シュツットガルトでもレスターでもそう。でも、トップスピードは低くてもそこに到達する距離を短くすればサッカーには使えるのでそこにフォーカスして、ターンやステップを加えていきました。だから、普通はターンすると減速するんですけど、岡崎の場合はそれがない。マークを外すのが上手いのも、普通はステップを切ったら減速するけれど、そうならない技術を身につけているんです。日本人が言うアジリティとは違って、岡崎の場合は推進力のあるアジリティなので、今まで見た選手の中で、今でも一番上手い選手だと思います」 ただ、その岡崎が身につけたもの、能力が欧州でいかんなく発揮されたかといえばそうでもない、というのが杉本氏の見方だ。 「彼はきっと、欧州に来てからずっと打ちのめされてきたと思うんです。トーマス・トゥヘルが岡崎に恋い焦がれて獲得してくれたマインツ時代でさえ、思ったタイミングでボールが来ないとかフラストレーションはあったはず。欧州ではずっと自分の理想と違う役割をいつも任せられて、要求に応えれば試合に出られるのでそれでいいやと思った部分もあるでしょうけど、いつも消化不良のままベストを尽くしてきたと思う。もちろんそれ自体を評価する人もいたけど本人はストレスだってたまったはずです。自分がやりたい得点に特化したポジションを一番全うさせてくれたのは実はエスパルス時代だと思うんですよね」