黒田総裁は何を指示したのか “意味深な一文“から日銀の思惑を読み解く
日銀の掲げる目標、”2年”と”2%”についての再確認
また、これはとは別の議論で「(物価目標達成の時期として)2年を放棄するのではないか?」、「2%の目標に柔軟性をもたせるのではないか?」といった観測も一部で生じています。 まず前者に関しては、そもそも日銀が2年という期間を目標にしていないという事実を再確認する必要があります。時間的目標はあくまで「できるだけ早期」で、2年というのは分析に基づく物価目標達成時期の「予測」という位置づけです。日銀が2年を撤回するとは、そもそも可能性がゼロです。 後者については、2%というピンポイント目標から2%±0.5%へと幅を持たせる、あるいは一段の金融緩和に否定的な見解を持つ木内委員が主張するように「2%の『物価安定の目標』の実現は中長期的に……」といっ具合にトーンを弱める可能性が指摘されていますが、2%目標の撤回は購買力平価説(PPP)に基づく通貨高を容認することになるので、そのハードルは極めて高いと判断されます(PPPでは物価上昇率の低い通貨ほど通貨価値が高くなる)。各国中銀がおおむね2%のインフレ目標を掲げるなか、日銀だけがそのコミットを弱めれば為替市場で「デフレ通貨」のレッテルが貼られ、強烈な通貨高にさらされることは想像に難くありません。 以上みてきたように、9月会合で示される「総括的検証」が追加緩和の予兆であるかは疑わしいと考えます。市場では9月会合における追加緩和が意識されていますから、「ゼロ回答」だった場合の失望は大きいでしょう。もっとも、このような追加緩和期待が生じることを承知のうえ、なぜ日銀が“意味深”な一文を挿入したのかという疑問は残ります。追加緩和や抜本的な枠組み変更の可能性が否定できないのも事実です。9月会合までに得られる日銀関係者(正副総裁はじめ審議委員含む)の発言等を精査し、考えを整理していきたいと思います。 【連載】いちばんわかりやすいマーケット予想(第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。