黒田総裁は何を指示したのか “意味深な一文“から日銀の思惑を読み解く
この一文は「追加緩和の布石」と読むべきなのか
まず最初の分岐点は、この記事の冒頭で提示した一文が、「追加緩和の布石」なのか否かです。「議長が執行部に指示」という文脈を見て真っ先に連想されるのは欧州中央銀行(ECB)ドラギ総裁が得意としている追加緩和の「予告」です。ドラギ総裁は、ECB内部の意見調整、追加緩和期待をつなぐという目的もあって、次回会合における追加緩和を強く示唆するという手法を採ってきました(たとえば量的緩和導入時など)。この手法は次回会合までの1カ月ないしは2カ月の間、市場で追加緩和を巡る憶測が飛び交うことで、そのこと自体が緩和効果を生み出すという利点がある一方、期待が膨らみ過ぎると失望を誘うリスクが高まるという弱点があります。この一文にはそうした意図がこめられているのでしょうか? 筆者の見解はNOです。こうした見方を示しているのが(おそらく)少数派であることを先に断っておく必要がありますが、これまでの黒田総裁の言動を踏まえると「検証の結果、金融緩和が不十分だったので今回新たに○○を追加する」などといった具合に過去の誤りを認めるような見解が示されるとは考えにくいからです。2013年4月以降の検証、つまり3年4カ月前との比較という視点で金融政策を評価すれば、「所期の効果があった」と結論付けることができるでしょう(「所期の効果」という言葉は日銀が好んで使います)。 この間、コアCPI(生鮮食品を除いた消費者物価指数)は原油価格の影響をダイレクトに受けたので参考にならないとしても、コアコアCPI(食料・エネルギーを除いた消費者物価指数)が一時1%に迫る上昇を記録したほか、日銀版コアCPI(生鮮食品・エネルギーを除いた消費者物価指数)が一時1%台半ば付近へと水準を切り上げたことは、金融政策に太鼓判を押す証拠として十分でしょう。最近のコアコアCPIの減速については、7月29日の追加緩和(3兆円から6兆円へとETF購入枠を拡大)で対処したから問題なしとの見方が示されるのではないでしょうか。