新しい建築の理念を現実に 未来都市の実験場となった万博 「生命」とのつながり示す 万博未来考 第4部(2)
建築は都市生活に新しい思想を吹き込み、人間の生き方を変える挑戦的な試みだ。芽吹き始めた新しい建築の発想を現実の形にし、実用化する上で、万博はまたとない実験の場を与えてくれる。 ジャングルジムのように組まれた鋼管フレームに、ステンレス製カプセルがいくつもはめ込まれた異様な建築。1970(昭和45)年大阪万博で、タカラグループのパビリオン「タカラ・ビューティリオン」が示したのは、都会的に洗練された「未来の生活」だった。 ■出し入れ可能、カプセル型住宅 カプセルの中に、おしゃれと機能美が組み合わさったキッチンや居間…。夢のような空間に来場者は目を見張った。フレームから出し入れ可能なカプセル型住宅は、将来にわたり再生を繰り返す建築として設計された。 設計したのは、万博当時30代の建築家、黒川紀章。近代建築の「機械の原理」に対し、古い細胞が新しい細胞に生まれ変わる「生命の原理」を建築に取り入れる「メタボリズム(新陳代謝)運動」の旗手だった。 メタボリズムは60年に東京で開かれた「世界デザイン会議」を機に黒川や菊竹清訓、槇文彦ら建築家グループが始めた運動。万博は、まだ理論に過ぎなかったメタボリズムの実験場となった。 大阪公立大の倉方俊輔教授は「(万博は)新たな空間の作り方を、すべて実験した場所」だったと評価。「(メタボリズムも)その一つとして現実化され、多くの人の目に触れることとなった」 万博後、黒川が設計し72年に完成した東京・銀座の集合住宅「中銀(なかぎん)カプセルタワービル」など全国にメタボリズム建築が出現。多くはその後、老朽化で相次ぎ姿を消し、同ビルも2022年に解体された。 しかし、理念は今も生きる。倉方教授によれば、タカラ・ビューティリオンの設計は1979年に大阪で生まれた日本初のカプセルホテルに発展した。鉄鋼メーカーの淀川製鋼所は、中銀カプセルタワービルのカプセルの一つを、オフィスなどの商品デザインのブランドシンボルとして活用。担当者は「夢のある新たな商品づくりにつながっている」と語る。 ■木造建築の伝統と技術を提案