観光産業への投資がメインの「観光立国ファンド」、大型ホテル開発から古民家再生、ベンチャー支援の取り組みと、設立の背景を聞いてきた
大型ホテル開発から古民家再生まで
ファンドは組成から5年間を新規投資期間と位置づけ、計10年間での回収を目指している。まず、2018年に設立した1号ファンド(組成金額200.1億円)では、不動産で古民家、アパートメントホテルなど全国15案件に投資し、すでにエグジット(投資資本を回収し、利益を確定させるプロセス)済みの案件も複数に上っており、53億円を回収した。 投資の一例が、積水ハウスとマリオット・インターナショナルが国内各地を複数開発した「Trip Base道の駅プロジェクト」だ。マリオットが新規プロジェクトとして道の駅に近接したロードサイド型ホテル「フェアフィールド・バイ・マリオット」を岐阜、栃木、京都など全国各地でオープンしたのを支援。単なる観光拠点としての宿泊事業だけではなく、地域に人が集まる仕組みを構築。U・Iターンなど地元を優先する雇用なども実施し、関係人口の増加にも寄与した取り組みである。 古民家再生の事例も、京都四条大宮付近路地一体を宿に改装した「Nazuna(ナズナ)京都 椿通」、岐阜県美濃市の「NIPPONIA 美濃商家町」、岡山県倉敷市の伝統的建築物をオーベルジュに改修した「撚る屋」など複数に及ぶ。古民家といっても再生方法は一律ではなく、美濃が和紙で栄えた町の歴史伝統を活かす宿泊施設にこだわったのに対し、京都では京町家の長屋を映画のセットのような全23室のラグジュアリーな旅館に作り直した。「特に古民家は地域密着型なので、地元の人たちのコミュニティに入り込むことが必要。また、インバウンド獲得に向けて外国人の目線が必要だったりと、ファンド出資を通して観光振興に関する多くのことを学びました」(池田氏)。
幅広いベンチャー企業にも出資
こうした開発、再生で大きな強みとなったのが、同社が出資企業のほかにも、ホテル・旅館オペレーターをはじめ、人材派遣、運輸、エンターテインメント、スポーツメーカーなど幅広い業界の企業がサポートチームとして参画している点だ。 たとえば、2018年9月から投資を実行し、2023年に開業した大阪府泉佐野市の「OMO関西空港」は、もともと旅行会社などを傘下に持つWBFホールディングスがホテルオペレーターを務める案件だったが、コロナ禍で2020年、約351億円の負債を抱えて倒産。当時、すでにホテルの建物がほぼ完成していたにもかかわらず、開業が危ぶまれたが、ファンドのサポートチームに星野リゾートが入っていたことから、そのネットワークも活かして星野リゾートがスポンサーとなることで開業にこぎつけた。星野リゾート初のエアポートホテルとしても注目されている。 また、ベンチャー企業に対しても、地方事業者と旅人のマッチングから伝統工芸品ECサイト、小売店検索、イベント運営、動画SNSデータ分析まで幅広い業種で、1号ファンドとして22社に出資した。なかでも、宿泊施設向け予約システム、AIチャットボットシステムなどを手がけるtripla(トリプラ)は2021年2月に投資実行したのち、2022年10月にIPO上場した。 ベンチャー担当役員の畑氏は成功している企業のポイントについて、「強みとなるプロダクトを主軸として据えつつ、トリプラ社のチャットボットのように客層の声を取り入れながら周辺ビジネスをうまく育てていっているのが特徴」と語りつつ、とりわけベンチャーの場合は経営者の明確なビジョン、コロナ禍のような環境変化でも方向転換を図れる柔軟性が重要だと指摘する。