感染症の文明史 :【第2部】インフルの脅威 3章 鳥インフルウイルス:(4)ヒトに感染する豚インフルが出現
21世紀のインフル猛攻
米国疾病対策センター(CDC)によると、WHOが2009年4月に発生が発表されてから 収束宣言が出された2010年8月までに、感染者数は 4300万~8900万人、死亡者数は約8870~1万8300人に及んだ。一方で、米ジョージ・ワシントン大学のローン・シモンセンらの国際的な専門家グループが2013年に発表した推計では、世界で12万3000~20万3000人が死亡し、関連死まで含めると、この数字は40万人に跳ね上がるという。 2009年5月9日に日本で最初に確定した感染者は、成田空港の検疫で見つかった大阪の高校生2人と教諭の計3人で、カナダに短期留学中に感染したとみられる。新聞各社は5月9日付朝刊の1面トップで大々的に報じた。その後、5つの高校の生徒間で広がり、全国規模に拡散していった。国立感染症研究所が11月にまとめた推計値では、累計の感染者数は902万人に上った。未確認者も含めて死者は203人だった。 どうして鳥のインフルウイルスがブタに感染したのだろうか。この答えは中国南部にあった。農村では、アヒルやガチョウやブタが一緒に飼われているのをよく見かける。庭先には食用の淡水魚(家魚=かぎょ)を飼う池があり、その上に網をはって鶏を飼い、池では魚とともにアヒルやガチョウが落ちてくる鶏フンを餌にする。ブタも放し飼いにされ周辺をうろついている。この光景を見たとき、過去に発生したインフルパンデミックの多くが、中国南部に起源があることを確信した。こうした農村風景は東南アジア諸国でも見られるが、その接触の濃密度が格段に高いからだ。
「再び起きるか」ではなく、「いつ起きるか」が問題
「次なる豚インフルの脅威は常に存在する」と、WHOのテドロス事務局長はさまざまな場でこの発言を繰り返している。そして「再びパンデミックが起こるかどうかではなく、いつ起こるかが問題であり、私たちは警戒し、備えを強化しなければならない。大規模なインフル流行のコストは予防の経費をはるかに上回る」と警告する。 WHOは最悪の事態に備えるために「世界インフル戦略2019-2030」を実施している。目標は次なる豚インフルに匹敵するインフル対する予防策を「準備不足」から「準備万端」に変えることで、すべての加盟国と関連団体に対し、この戦略を優先的に実施するよう呼びかけている。 戦略では、各国があらゆる種類のインフルに対応して支援するように呼びかけている。150 以上のインフルの研究機関による協力体制の構築や、127の国や地域が加入する「世界インフル監視対応システム 」(GISRS)の強化拡大などが挙げられている。こうした国際協力で、世界のインフルワクチンの生産量が過去30年で15億回分から64億回分へと4倍に増えるなどの成果が上がっているという。