人類が100年間解けない謎がそこにある…「世界で最も不可解な本」にビッシリ描かれた未知の文字、奇妙な挿絵
■現代の研究手法をもってしても解読できない 真贋論争には、往々にして物理的な証拠と化学的な分析が有力な判断材料を提供してくれる。第2章で詳述するように、2011年には写本が書かれている羊皮紙の放射性炭素年代測定が行われ、15世紀前半の仔牛から作られたものだという結果が得られた。 放射性炭素年代測定法は考古学や地質学の分野で開発されてきた手法だが、極微量の試料による年代測定が可能になったこと、測定精度が高くなったことから、写本や古文書に対しても適用されるようになってきた。 また、文字や挿絵に使われているインクの成分分析も行われた。その結果は、本文や挿絵のインク成分は中世のものだと考えて矛盾がないことを示すものだった。つまり、ヴォイニッチ写本は、15世紀の仔牛皮に、中世のインクによる文字と挿絵を持つことになる。 羊皮紙やインクの成分分析によると、15世紀か16世紀に制作された写本だということは確実だといってよい。それでは、現代の研究手法をもってしても解読できないようなものを中世に作り出すことができたのだろうか。『ヴォイニッチ写本』第2章で見ていきたい。 ---------- 安形 麻理 慶應義塾大学教授 2005年慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。博士(図書館・情報学)。専門は書誌学。ヨーロッパにおける初期の活版印刷技術に関心があり、 グーテンベルク聖書を中心とするインキュナブラの特徴、初期の活字の分析、写本から印刷本への見た目の変化、読書の様式、資料の保存、書物のデジタル化と書誌学研究への応用などをテーマに研究している。 ---------- ---------- 安形 輝 亜細亜大学経営学部教授、図書館長 1998年慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。未解読文献に加えて、大規模書誌データに基づく分析、図書館における資料選択や除籍、日本のマンガの国際的な受容、絵本やマンガの電子書籍化、情報環境が限界に近い地域での図書館のあり方などについて関心を持っている。 ----------
慶應義塾大学教授 安形 麻理、亜細亜大学経営学部教授、図書館長 安形 輝