ドバイの建物はなぜ〝奇抜〟?アラビック文字のドーナツ型「世界で最も美しい博物館」デザイナーに聞く理由
UAEの成り立ちとの関わり
UAEは、その名の通り7つの首長国から構成される連邦国家だ。7つの首長国は、それぞれ独自の行政の下で政治や経済を動かしており、ドバイでは先述したシェイク・ムハンマドが首長を務めている。 意外に思われるかもしれないが、ドバイでは石油がほとんど採れない。オイルマネーを背景に発展したと思われがちだが、ドバイは石油埋蔵量が少なく、お隣のアブダビのように採油を資本にして豊かになることは叶わなかった。 そこでシェイク・ムハンマドは、石油に頼らない発展を目指すべく、自由経済特別区、いわゆるエコノミックフリーゾーンを創設することに活路を見出す。端的に説明すれば、同じエリアに同じ業種を集め、互いに自由競争させることでいいものをつくり出すことを前提としたエリアのことだ。 さらには、企業に掛かる税金をほぼゼロにし、業種ごとに必要なインフラや法律、制度を調整。その結果、名だたる企業が集まるようになり、ドバイは高い競争力を誇る世界屈指の都市へと変貌を遂げた。 こうした野心的な背景があるからこそ、ドバイは意図的に“世界で最も高い”“世界最大”といった建造物を作り、注目を集めるようにしたのである。 「シェイク・ムハンマドのもと、ドバイは先進的な建築を作ることで、ドバイという都市を国際的な舞台に引き上げ、住まいやエンターテイメント、文化の活気あるハブとして示すことができました。観光客を引き付けるだけでなく、世界で最も住みやすい都市の一つを作り出すことも大きな目的だったのです」 驚くことに、ユニークなデザインは建築家の提案ではなく、ドバイ政府によるものだという。 「ドバイの最も象徴的なプロジェクトの多くは、シェイク・ムハンマドの指導のもと、政府によって発注されたものです。ドバイとUAEを国際的な舞台に位置づけるためのビジョンの一環として進められています」
未来博物館のデザインの裏側
とはいえ、ユニーク“すぎ”やしないか。自らの提案であれば、できる・できないの判断の上に成り立つものだろうが、政府の提案ともなれば、ときに無茶ぶりになってしまう気がしないでもない。 だが、バイオさんは「どんな先進的なプロジェクトでも私たちは対応できる」と胸を張る。 「キラデザインでは、トップクラスのエンジニアと協力し、デザインの早い段階でファブリケーター(製造または構築するプロセスに関与する会社や個人。設計に指定された建物の要素や材料を担当する)と相談することで、挑戦的なアイデアでも実現可能にしています。 例えば、『未来博物館』の外観は世界初の試みでしたが、金属やガラス、石材などの部品を扱うファブリケーターと密な連携を取ることで可能にしました。建物の構造や設備、外観を最適化するために、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やパラメトリックデザインなども活用しています」 BIMとは、建物を設計・建設する際に使うデジタルモデルのこと。建物の形やサイズだけでなく、材料や設備の情報も含まれているため、関係者全員が同じ情報を共有でき、設計や施工のミスを減らすことができるそうだ。 また、パラメトリックデザインは、デザインの要素を数値やパラメータに基づいて柔軟に変更できる手法だという。建物の高さや幅を変更すると、その影響は他の部分にも連鎖するわけだが、パラメトリックデザインを用いることで自動的に調整されるそうだ。 これにより、デザインを迅速に試行錯誤でき、効率的に進めることが可能になる。デジタルの力を借りることで、「たとえ難しいデザインであっても、コストを抑え、効率のよい満足のいく建設が可能になる」とバイオさんは話す。 「『未来博物館』は、建物や構造物を建設する際にロボットを利用するロボット建設技術も導入した、世界で最も先進的な技術を施した建物の一つでもあるのです」 最先端の技術を用いるからこそ、ドバイの建物はユニークな形状を可能にする。あのユニークさは、“技術力の誇示”でもあるというわけだ。