小泉今日子と小林聡美のリアリティ!ドラマ「団地のふたり」は日曜の夜にふさわしい
団地コミュニティで見えてくるもの
ふたりが生まれ育った団地だけに、近所の年寄りたちからは「小娘」扱いされ、若手と言われては雑事を頼まれることもある。ご近所レディの佐久間さん(由紀さおり)から網戸の張替を頼まれ、ふたりで手伝ったところ、他の高齢住民たちからもわんさか依頼されてしまう始末。共生と相互扶助がまだ存在している、それが団地コミュニティ。一方で、野枝の父(橋爪功)は団地の管理組合の理事長で、ゴミの出し方やら騒音など、住民から日々寄せられる苦情にため息をついている。過干渉と不寛容が存在している、それも団地コミュニティである。 ノエチとなっちゃんは仲良くつるみながらも、この団地コミュニティでいろいろな住民と触れ合っていくようだ。ノエチの兄(杉本哲太)が実家に残してある、ギターやら楽譜本をこっそりフリマアプリで売り飛ばす悪巧みも描かれた。思いのほか高値で売れたので、高級な食材(あなごや京漬物)を買って、ふたりで豪華な晩餐に。ちゃっかりしているふたりだが、今後は住民同士をつないだり、和を広げる役割を果たすようにも見える。住民それぞれの人生譚を間近に見て、自身の老い支度の参考にしていくのかもしれない。得るモノはお金でも賞賛でもない。幸せとはなんぞや、の答えなのかもしれない。 余談だが、私自身もベビーブーム世代で、千葉県の団地のある町で育った(特に船橋市はめっちゃ団地が多いのよ)。1970年代、関東近郊には数十棟が立ち並ぶ巨大団地がたくさん建てられ、都心部通勤組と子育て世帯のベッドタウンとしておおいに役割を果たした。そんな団地が今は高齢者ばかりでオールドタウンと化している話もよく聞く。逆に、古いが賃料の安い団地に外国人が集って、独自のコミュニティを形成して団地文化を守っている話もあるし、人とのつながりが育まれる団地のよさを再確認した若い世代も増えている、とも聞く。 景気がよくてなにもかもが元気だった昭和の時代から、不景気と大災害で底打ち状態の平成、疫病の蔓延で人間関係のありようが一変した令和と、団地を通して日本社会の来し方行く末が垣間見えるような気もするのよね。 「団地」をテーマにしたドラマや映画は過去にもあったが、集合住宅の煩わしさや干渉の恐怖という負の面がクローズアップされたり、ノスタルジーを通り越えてファンタジーに昇華した作品だった。『団地のふたり』のように、特別でも非日常でもない、団地で暮らす人々を牧歌的に描く作品は珍しく、貴重でもある。 この団地内には、おっさんたちに人気の色っぽい福田さん(名取裕子)や、苦情ばかり言って輪に入ろうとしない東山さん(ベンガル)など、濃いメンツも揃っている。殺伐とした大事件は起きそうにないが、この後に登場する毎回のゲスト陣を見る限りでは、微笑ましい小競り合いや温かい交流が繰り広げられそうだ。考え方をちょっと方向転換したい人、今の住まいから環境を変えたいと思っている人に、このドラマはささやかなヒントをくれるかもしれない。
『団地のふたり』 NHK BS 毎週日曜 夜10時00分~ 原作:藤野千夜 脚本:吉田紀子 音楽:澤田かおり 制作統括:八木康夫(テレパック)、勝田夏子(NHK) 演出:松本佳奈 / 金澤友也(テレパック) 出演:小泉今日子、小林聡美 / 丘みつ子、由紀さおり、名取裕子、杉本哲太、塚本高史、ベンガル / 橋爪功 ほか ※9月7日(土)午前0:15~1:05に第1話をBSにて再放送。現在NHKオンデマンド、U-NEXTで第1話から配信中。
吉田潮