横浜流星の【5つの顔】はこうして生まれた 映画『正体』リアリティを支える職人たちの舞台裏
染井為人氏が上梓した小説が原作の映画『正体』は、一家惨殺事件の容疑者として逮捕され、死刑宣告された当時未成年の鏑木慶一が決死の覚悟で繰り広げる逃亡劇だ。逃亡先の日本各地でさまざまな人々と接触し、「ある目的」を果たすために逃げ続ける鏑木は【5つの顔】を持つ男として描かれる。 いつ誰に自分の正体がバレるかわからない…警察の追手はすぐそこまで来ている…そんな緊迫感のなか、鏑木は髪型や髪色を変え、服装を変え、顔を変えて逃げ続ける。 【写真を見る】横浜流星の【5つの顔】はこうして生まれた 映画『正体』リアリティを支える職人たちの舞台裏 この物語を映像化するにあたり大きな力となったのが、スタイリストとヘアメイクの技術といっても過言ではない。【5つの顔】を演じ分けなければならない主演の横浜流星さんにとって、見た目の作り込みが役作りの確かな手がかりとなったことは容易に想像できる。 スタイリストの皆川美絵さんとヘアメイクの西田美香さんに撮影時のエピソードを聞き、メガホンを取った藤井道人監督の細かなリクエストを受けながら奮闘したその職人魂に迫る。 ■キャラクターが物語になじむリアリティ ──藤井組でお仕事をする際、この組ならではの特徴やこだわりはありますか? 西田:藤井組の場合は、演出のお手伝いまでしているという感覚があります。 皆川:藤井さんはリアリティを重視する監督で、ロケハン(ロケーションハンティング)にも同行してほしいという要望があります。実際に現場で働いている人に会って、「ここでどういうことをするから、こういう格好をする」といった話を詳しく聞くんです。その仕事ならではの特徴や動きを知り、その人が着る服の素材や風合いを調べる。ロケハンはある意味、社会科見学のような時間ですね。 西田:たとえば、時間軸に従って髪の長さも変わります。そういった場面で“ウソ”が見えないようにしないといけない。藤井監督からは「どうしてこういうメイクにしているのか」と質問がくることがあるので、それに答えられる理由を見つけておかないといけないんです。ある場面で、夜中にうなされながら寝ている。だったらクマは隠さないほうがいいな、と思ってクマを濃くする。他にも、緊張するシーンでは唇が乾燥する、汗を足していくなど些細な役の心情変化を細かく作っています。リアリティを追求するうえでの緊張感を持ちつつ、常に闘っている現場が藤井組です。