横浜流星の【5つの顔】はこうして生まれた 映画『正体』リアリティを支える職人たちの舞台裏
──そして、本人・鏑木慶一のスタイルはどのように作りましたか? 西田:監督からは、最終形態(鏑木)は「みんなが知っている横浜流星にしてほしい」と言われました。真っ白なシャツが似合う顔の流星さんに、ということでしたが、スタイリッシュにしすぎても少し違う。そのバランスを見極めるのが難しかったですね。 皆川:鏑木はもはや自分を隠す必要がないので、きちんとサイズを合わせています。 ■一緒に生きることを全うするためのお手伝い ──横浜さんは【5つの顔】を演じ分けていますが、どの顔にも共通している“瞳で物語る引力”が印象的でした。眼の表情を作るのに、苦労された点はありますか? 西田:瞳の力を印象づけるために、あえて眼を隠して強調させたいという意向がありました。5つの顔それぞれでメガネをかけたりカラーコンタクトをつけたりして、瞳の本質が見えづらい状況なんですね。なので、一瞬の眼が見える瞬間を狙う、そういった演出が多かったように思います。 皆川:スタイリングでいうと、メガネや帽子を使っていますが、それぞれのキャラクターにどう合わせるかを考えながら探して。現場であえてメガネを汚したりしたこともありましたね。 西田:それに加え、メガネや帽子が取れた瞬間を狙って眼を見せたり、髪の隙間から見える瞬間を作ったりと、いろいろ工夫をしています。 ──物語の一端を担う重要な役割のお仕事をされるにあたり、どのような心構えで臨まれましたか? 皆川:個人的に、映画やドラマを観ていて衣裳やメイクに違和感を覚えることがときどきあるんです。そうならないように、衣裳を通して役をどう物語に入れていくかを考えるようにしています。藤井監督はとくに物語や風景にいかにその人物をなじませるかをとても重視するので、『正体』でもそこを意識して現場に入っていました。 西田:私は常々、俳優部が現実から役に入るまでの後押しをするのが自分の仕事だと思っています。役者さんがそのキャラクターと一緒に生きることを全うするためのお手伝いといいますか…メイクや衣裳、撮影道具が一丸となって背中を押す。その人物の心情が見えるお手伝いをできることが、ヘアメイクとしてやりがいを感じる瞬間です。
緻密な計算とリアリティへのこだわりで物語を紡ぐ藤井道人監督。観客が物語に没入できるよう、違和感のない世界観を徹底して作り上げる。その制作方針に共鳴し、監督の高い要求に応え続ける“縁の下の力持ち”たちがいるからこそ、唯一無二の作品が誕生するのだ。藤井組を支える職人たちの厳しくも真摯な姿勢は、スクリーン越しに観る者の心を揺さぶり、新たな感動を生み出していく。
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