自らを「傲慢だった」と語る下川 亮さんが、新たな食体験を提供する経営者になるまで
食の世界に新たな価値を届けるサービスを次々と導入し、業界に新たな風を吹き込んでいるアティロム代表取締役の下川 亮さん。 ▶︎すべての写真を見る 学生時代はアメフト選手として活躍するも、当時はチームではなく個人プレーを優先していたそう。 そんな下川さんが、他者と喜びを分かち合う“食体験”を提供するに至った経緯を伺った。
楽しみをともにする瞬間が最高に幸せ!
「これ見てくださいよ。怖くて誰も近づきたいと思わないですから(笑)」。 そう言いながら下川亮さんは自身のスマホの画像を見せてくれた。アメフトの選手として活躍していた学生時代の写真だが、現在のすらっとした外見と爽やかな笑顔からはまったく想像できない。 筋骨隆々のたくましい体躯と鋭い眼光が特徴的な青年が写っていた。学生時代はさぞかしモテたのではというスタッフの言葉に対し、冒頭の発言が飛び出したのだ。 そんな下川さんにとってのFUN-TIMEは、仲間や家族と幸せを分かち合う瞬間であるという。 「先日、友人と一緒にゴルフをしたのですが、それがすごく楽しくて。 例えばバーディーを取ってもひとりでプレーしていたら、「よっしゃ!!」という雄叫びもないと思うんです。自分の感情を共有できる仲間がいるからこそ自然と出る感情なのかなって。 あと仕事でも、仲間と一緒に目標を達成して祝杯をあげるときや、そのゴールまでチーム一丸となって取り組む過程もまた、自分にとってはすごくFUNなひとときです」。 自身のFUN-TIMEに仲間の存在は不可欠であると、改めて語る。 「例えば食事もそうじゃないですか。美味しい料理を食べてもひとりだと何だか寂しい……。でもこの美味しさを誰かと共有したら楽しいし、何よりもっと美味しく感じると思うんです」。 FUNなことは仲間や家族と分かち合うことで生まれる。このことに気付かされた出来事が、過去にあったという。それは学生時代にまで遡る。
あの叱責がなければ今の自分はない
「幸運なことにアメフトの選手としては比較的恵まれて、大学では1回生のときからレギュラーとして試合に出させてもらっていました。 でも、当時の自分はすごく傲慢で、チームではなく個人のプレーを優先していたのです。そしてある日、当時の主将から「お前は信用できない」と言われて、その言葉にかなりショックを受けました。 その経験以降、チームに貢献できることを考えたり、誰かのためにということを意識するようになりました」。このときの経験は、今の仕事にもつながっているという。 「他者と喜びを分かち合うような価値や、人々が明日に向かって頑張る活力を享受できるようなものを作りたいと思い、いろいろと模索した結果、食がいちばん理想的だと感じました。 才能を持った料理人が、日本にしかない素材を使ってかけがえのない体験を提供したり、特別な形で食とお客さまを結びつけるようなものを作るという。 このような思いが、コラボレイティブ・レストランであるアティロム・トーキョーの運営にいたる発端になりました」。 食に魅せられた要素は、ほかにもあったという。 「“美味しい”の定義は人によって違うじゃないですか。風呂上がりの牛乳が美味しいという人もいれば、おふくろが作った肉じゃがが大好きという人もいて。絶対的尺度がないという状況が、すごく面白いなと感じました。 あと今後、どれだけIT技術などが進歩して世の中が変わっても、“食”は変わらないと思ったんです。ものを食べるという行為や、それを体験して人と感情を分かち合うことはずっと存在して、しかもそういう普遍性は日本だけでなく世界中で同じなわけで」。 だがここで問題が発生する。下川さんは当時、食全般はもちろん、飲食業界についてもまったくの素人。「当時はペリエ(炭酸水)も知りませんでしたから(笑)」。 自身の食に関する勉強や営業活動などが功を奏し、下川さんの手掛ける事業が徐々に知れ渡っていく。だがどんな状況でも心に刻んでおくべきことがあるという。 そのひとつが時間の大切さだった。「これは仕事に費やす時間ではありません」と、前置きをしつつ。 「信用を積み重ねていく時間ですね。新しい商品やサービスをご利用いただくためには、お客さまからの信頼が不可欠です。 飲食業界のみならずファッションでもスポーツでも、100年以上続いているブランドって、最高の品質を届けるために長い年月をかけて努力をし、その結晶を長年にわたって受け継いできた。こういった経験を積み重ねていくことが、前に進んでいくための糧になっていくと思うんです。 幸運にも弊社では今年、『ザ・リッツ・カールトン京都』さんとコラボレーションをさせていただくなど、多くの方々に声をかけていただきながら、少しずつ成長していると思います」。 今後企業として実現したいことを聞くと「時間や空間を超越することですね」ときっぱり。