高まる「ホームグロウン・テロ」の脅威 対策には何が必要か?
1月7日に起きたフランス・パリで起きた新聞社襲撃テロ事件は、世界を震撼させました。また、1月20日には「イスラム国」(IS)に拘束されていた日本人2人に2億ドルという身代金を要求する事件が発生しました。日本人拘束事件はテロ組織である「イスラム国」によるものですが、フランス紙襲撃事件は自国で育った者による「ホームグロウン・テロ」とされています。いま、この「自国育ちテロ」が世界的に大きな課題となっています。それはどのようなテロなのか。どう防げばいいのか。元公安調査庁東北公安調査局長の安部川元伸氏が解説します。 ※ ※ ※ 【写真】イスラム教の「過激派」とは なぜ自爆テロまで行うのか?
「プロのテロ組織」と「自国育ちの若者」
近年発生しているテロの傾向を見ると、アルカイダ及びその配下の組織に特徴づけられるように、テロリストとしての訓練を受け、さらには実戦経験を積んだメンバーがテロを行うとい事例に加え、テロ組織が配信するウェブサイトやSNSの書き込みなどを見て感化 した若者たちがテロを行うという、2つのパターンが見受けられる。 アルカイダの中枢組織や、シリアやイラクで活動する「イスラム国」(IS)、イエメンの「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)などは、いわばプロのテロ組織であり、テロを一種の職業として捉えている。彼らは、常に治安・情報機関からマークされ、活動歴や個人データは世界各国で共有されている。したがって、治安機関からすれば、彼らの行動は比較的把握しやすく、テロ計画が事前に摘発されるケースも少なくない。 しかし、その国で生まれ、その国の国籍を有する若者たちが、何らかのきっかけで過激化し、テロリストになるという「ホームグロウン・テロリスト」は、事前に摘発することは極めて困難であり、各国治安機関の悩みの種となっている。
テロ組織が戦略的に「育成」
9.11米国同時多発テロ以降、世界中が協力してテロの防止に努め、米国の主導による「テロとの戦い」が始まった。その間もテロは起きているが、テロリストは、移動、資金調達、武器調達などが自由に行えなくなり、自ら先進国に潜入して大規模テロを行うことも難しくなった。そこで考え付いたのが、インターネットの活用であり、誰もが持っている携帯電話を通じたソーシャル・ネットワークによる若者の取り込み(リクルート)である。 テロ組織は、執拗に情報を発信し、読者の心情を巧みにくみ取り、過激思想を植え付けていく。サイトでは、次の段階で身の回りの材料から爆弾を製造する技術も教え込む。昔と違い、テロ組織は最小限の手間と最小限の費用で立派なテロリストを育て上げられるようになったのである。 アルカイダは、常にグローバル・テロを追求し、米国や欧州などの“遠い敵”を攻撃するよう訴えてきた。9.11テロ事件以降、ジリ貧状態にあったアルカイダやそのほかの国際テロ集団は 、このホームグロウン・テロリストを有効活用し、自分たちの代わりに彼らにテロを行わせるようになった。