「ギアチェンジ」と「常識外」で過去最高益、横河電機奈良寿社長の戦略
2024年10月24日発売の「Forbes JAPAN」12月号では、「新・いい会社100」特集と題して、全上場企業対象、独自調査・分析で作成した、「ステークホルダー資本主義ランキング」「自然資本ランキング」「脱炭素経営ランキング」「サプライチェーンランキング」「リスキリングランキング」などを紹介している。それぞれのランキング上位企業、計8社のCEOインタビューや早稲田大学商学部教授のスズキトモ氏、東京大学大学院経済学研究科教授の柳川範之氏らのインタビューコラム等も掲載している。 2024年版「ステークホルダー資本主義ランキング」第5位に選ばれたのは、2024年3月期連結決算で営業利益、経常利益、当期純利益ともに過去最高を更新した横河電機。組織再編を通じて事業とサステナビリティを両立し、「ギアチェンジ」でさらなる成長と社会貢献を目指す。 2017年、横河電機は50年に向けたサステナビリティ目標 「Three Goals」を設定した。「ネットゼロエミッション」「サーキュラエコノミー」「ウェルビーイング」だ。一方、プラントを中心とした事業群は21年に「エネルギー&サステナリビリティ」「マテリアル」「ライフ」という3つのセグメントに再編。エネルギー&サステナリビリティ事業は再生エネルギーへのシフトを進めてネットゼロエミッションの実現を、マテリアル事業は金属やプラスティックなどの資源リサイクルを推進しサーキュラエコノミーの実現を、そしてライフ事業は医薬品や食品で人々のウェルビーイングの実現を目指す。 サステナビリティで目指すものと事業内容がピタッと重なったかたちだが、同社を率いる奈良寿は「意図的に合わせたわけではない」と明かす。 「わが社のコアコンピタンスは、計測、制御、情報です。もともとオイル&ガスの分野を中心にこれらの強みを発揮していましたが、海外でも国内同様に他の業種にまで守備範囲を広げようと事業セグメントを整理したら、たまたまサステナビリティで目指すものと合致した。偶然ではありますが、従業員はSDGsについても腹落ちした状態で事業に取り組むことができています」 サステナビリティと事業が一体化したプロジェクトも続々と動き始めている。そのひとつが、欧州最大の港であるオランダ・ロッテルダム港のSoS(システム・オブ・システムズ)プロジェクトだ。「システム単体では無理でも、システム同士を組み合わせれば実現可能なことは数多くあります。ロッテルダム港のコンビナートでは、石油や化学など複数の事業者間を物理的につなげつつデータ上でもコネクトし、全体最適でエネルギーの有効利用を支援しています。事前調査では最大5%のコスト削減に加え、CO2排出量削減が期待できると判明しました」 社会の潮流と事業が合致すれば業績も上がる。ひとつ前の中期経営計画「Accelerate Growth 2023」で掲げた経営目標は、売上高成長率の年間目標4~6%に対して実績は13.0%、ROEは目標10%に対して実績15.1%と、各指標が計画を上回った。同社は00年から中計を策定しているが、計画を達成したのは実はこれが初めてだった。24年度からは新中計「Growth for Sustainability 2028」がスタートした。そんななか、奈良が最近よく口にする言葉がある。「ギアチェンジ」だ。 プラントは30~40年の安定稼働を求められるビジネスだ。同社は長期的視点をもってステークホルダーに価値を提供しつづけてきたが、その半面、短期の瞬発力に欠けるところがあった。中計を達成してステージが変わった今、新たな挑戦をして成長を加速させる必要があると奈良は言う。