名古屋城エレベーター設置問題 河村市長の「1、2階までなら合理的配慮」発言に障害者団体抗議 なぜこのような事態が起きる?
「誰も入れない施設なら抗議しない」
複雑なこうした事情をよく知っているからこそ、障害者団体は声を上げている。愛知県内約15の障害者や関係者の団体で構成される「名古屋城木造天守にエレベーター設置を実現する実行委員会」の辻直哉事務局長は指摘する。 「この城が完全復元され、一部の許可を得た研究者などごくわずかな人を除いては誰も入ることができないものであれば、私たちも何も言うことはない。しかし、市は観光客を受け入れる公共施設にするという。であれば、どの階もバリアフリーにしてほしいというのはごく当たり前の申し入れでしょう」 観光客を入れるとなれば、耐震・耐火はもちろん、バリアフリーも必要だ。高齢者や障害者の移動円滑化への適合が義務付けられたバリアフリー法施行からおよそ16年。各階にエレベーターで移動できるようにするのは観光客を受け入れる公共施設としては当然のことだろう。障害者団体は、江戸時代のままに完全復元する城にエレベーターをつけろ、とわがままを言っているわけではない。できるだけ昔の姿に近い「復元的整備」の天守なら、我々も入れるようにしてほしいと要望しているだけだ。
「完全復元」の思いにとらわれている市長
このように見ていくと、河村市長の「完全復元」への執着が問題をややこしくしているようにも思える。梁や柱を外さなければならない大型エレベーターではなく小型の「昇降機」が採用されたのも、河村市長の「木造天守を当時のままに復元する」という思いに応えたものだといえる。しかし、「完全復元」の思いにとらわれている河村市長の本音は、こうした小型の「昇降機」であっても本当は取り付けたくないのだろう。 河村市長が、かつて国宝第1号だった名古屋城を大切に思い、後世に当時のままの姿で引き継いでいきたいと考えている気持ちは、「昔のもの(再建天守)を残して1000年後の子供に引き継ぐ義務はありますけど、それを変更する権限はない」「車椅子使って自動で(上がれるような)技術ができてくると思う。少なくともそれまでは本物性を毀損しちゃいけません」といったこれまでの発言などからよくわかる。つまり、将来の技術革新で昇降は可能になるだろうから、今の時代の人には我慢をしてもらおうという考えのようだ。これ自体は一つの考え方として分からないでもない。 しかしそもそも客を入れる以上「復元」ではなく「復元的整備」をするしかなく、河村市長が望んでいるものができる見込みはないのだ。市長としては全責任を取ると言って始めた事業だけに、今さら引っ込みがつかないのだろう。追加された避難階段はぱっと見でわかりにくいので目をつぶるが、目立つ昇降装置には目くじらを立てる。「みてくれ」だけでも完全復元と思わせたいのかもしれない。