「選ばれし者」久保建英、ベンチの理由と克服すべき課題とは?地元記者の願い「どうかソシエダに残って」
ベンチスタートと衝撃のゴラッソ
ラ・リーガ第2節エスパニョール戦(1-0)、途中出場から見事なゴールを叩き込んでみせた久保建英。その後シャツの名前を執拗にアピールするなど振る舞いも大きく話題となった中、レアル・ソシエダ地元出身記者がベンチに座った理由とその課題、そして「選ばれし者」へ託す願いを綴る。 【動画】久保建英が見せた“怒り”のスーパーゴール! 文=ナシャリ・アルトゥナ(Naxari Altuna)/バスク出身ジャーナリスト 翻訳=江間慎一郎
希望の火
シーズンが開幕するときには胸が躍っているはずなのだ。それなのにレアル・ソシエダのサポーターは、すでに打ちのめされてグロッキーになっている。現代フットボールの時流に逆らって帰属意識や絆を人一倍大切にするバスク人にとって、主力選手の流出はあまりに心が痛い。痛過ぎる。 今夏の市場ではロビン・ル・ノルマンがアトレティコ・マドリー、ミケル・メリーノがアーセナルに移籍した(契約完了間近との報道)。彼らのほかには、リヴァプールがマルティン・スビメンディ獲得を狙ったが、私たちと感覚をともにする地元出身選手はさすがに誘いに応じなかった(少なくともあと1シーズンの間は……)。 そして、久保建英である。この日本人にも一時期リヴァプールに移籍するという報道(こちらでは“飛ばし記事”と扱われている)があったが、彼は今現在もラ・レアルでプレーしているばかりか、第2節エスパニョール戦で傷心の私たちに希望の火を灯してくれた。まさかのスタメン落ちとなった久保だが、途中出場からゴラッソを決め、逆境を乗り越えるメンタリティーを示したのだった。
選ばれし者のプレー
エスパニョール戦、イマノル・アルグアシルが久保をベンチに置いた理由は複数あるのだろう。昨季後半戦から久保が不調を引きずっていること(チーム全体もそうだが)、中3日でアラベス戦が控えていること、新加入セルヒオ・ゴメスをこの昇格組との一戦で試してみたかったこと……。とはいえ、どんな理由があろうとも、選手にとってベンチスタートは簡単に受け入れられるものではない。だが久保が素晴らしかったのは、その簡単には飲み込むことのできない怒りを、チームのために使ってくれたことだ。 エスパニョールDF陣に疲労の色が見えた80分、久保はそのとびっきりの才能の火花を散らしている。右サイドでボールを持つと、切れ味鋭いドリブルでエスパニョールのDF2枚を抜き去りペナルティーエリア内右に侵入。左足で強烈なシュートを放ち、GKジョアン・ガルシアを破っている。 久保らしさが詰まったゴラッソだった。確かに、エスパニョールの守備が甘かったことは否定できない。彼の突破を防ぐためには、対面するDF1枚の後ろにもう1枚置いて、1枚抜かれてもすぐカバーする“いやらしい”守り方がラ・リーガで定石となっている(昨季前半戦でディエゴ・シメオネ率いるアトレティコ・マドリーが確立した方法だ)。今回のエスパニョールのように2枚が横並びになって守れば、久保はいとも簡単にぶち抜いて、その奥に空いたスペースを生かしてゴールをかっさらってしまう。 久保はオリバンの股にボールを通してペナルティーエリア内に入り込んだ……。しかし、もう何回彼の股抜きを目にしたのだろうか。股抜きはする時にすると考えず、考えてしようとしてもできないばかりか、ボールを奪われてしまうものだ。何十分の1秒の直感がなせる技であり、手段である。誰でもできるわけではないフットボールの芸術だ。そしてエリア内で見せた驚異的な振りの速さのシュートも、まさに選ばれし者のプレーである。