錦鯉、バイきんぐ、ザコシ……「芸人の墓場」と呼ばれた事務所で、売れっ子を量産する仕掛け人
こんな楽しい仕事はない
有楽町線千川駅近くにあるSMA専用劇場「Beach V(びーちぶ)」には、今日も若手が集まり稽古にいそしむ。若くしてこの世を去った、村田渚(元・フォークダンスDE成子坂)の名前にちなんだ劇場だ。 「彼の死は大きかったですね。若い子には好きなことを後悔なくやってほしいと思っています。やめるといわれたら?次の目標がある人は止めないです」 現在、SMAには平井の他に4人のマネージャーがいて、テレビなどの露出が増えると専属の担当がつく。平井は全体を統括する立場になったが、ライブハウスに日参し、若手のネタには欠かさず目を通す。
集合時間になると次々と芸人たちが挨拶に訪れ、やがてネタ見せが始まる。平井は、「ここを訪れた芸人には等しく幸せになってほしい」と言う。モニター越しに芸人を見る平井の目は優しい。 30年前、入社面接の場で平井はこう言ってのけたそうだ。 「ヒット商品が生まれるためにはいろんな人が関わっているけど、マネージャーは『僕がヒットさせたんです』と胸を張って言える。こんな楽しい仕事はないと思いますって。その図々しさが評価され、採用されたのかなと思います」
縁あって入社して23年。後発のSMAをお笑い界の一大事務所にまで押し上げた男は、今日もライブハウスの小さな部屋で若手のネタを見守る。 平井のデスク前には、売れっ子になり劇場を「卒業」した芸人たちの名前が貼ってある。それを指さし平井は静かに笑った。 「彼らはね、僕が売ったんですよ」 今週末の、錦鯉が虎視眈々と頂点を狙うM-1決勝。マネージャーを天職とする平井の「成果」が、またひとつ問われる。
--- キンマサタカ 1977年生まれ。大学卒業後にサブカル系出版社に入社し、書籍編集から営業まで幅広く担当する。2015年に編集者として独立。株式会社パンダ舎を設立し、多くの書籍を手がける。ライター・写真家としても活躍し、岩井ジョニ男のインスタをプロデュースしたことで話題に。