鳴門渦潮「185球完投」に賛否の声、背景にあった徳島県が抱える“特殊事情”
二番手も肩を作っていたが……
いよいよがベスト8出揃う今年の夏の甲子園。大きな話題を呼んだのが、大会5日目に早稲田実(西東京)に敗れた徳島代表・鳴門渦潮のエース・岡田 力樹(3年)の「185球完投」であった。 【トーナメント表】甲子園大会 10日目までの結果一覧 複数投手制による継投が高校野球の日常風景となった今、なぜこのようなことが起きたのか?徳島大会決勝を含め普段から徳島県の高校野球を取材し、甲子園の早稲田実戦もアルプススタンドから見守った筆者が、その理由を分析してみた。 岡田の投球数推移をみてみよう。4回表までに89球。5回表こそ10球で三者凡退に仕留めたが、6回表からの4イニングで96球を要し、毎回失点した。この球数の背景には、早稲田実の集中力・対応力が高かったことがある。 プロ注目のショートストップである2番・宇野 真仁朗内野手(3年)の5打数3安打3打点がクローズアップされたが、結果こそ5打数無安打1四球ながら、6打席中4打席をフルカウントまで持ち込んだ1番・三澤 由和外野手(2年)を筆頭に、早稲田実打線は延べ46打席中実に16打席も岡田にフルカウントまで投げさせることに成功している。岡田の武器であるスライダーに体勢を崩されながらも強いスイングでファウルを放つ粘りは、まさに鳴門渦潮にとって「脅威」であった。 ただ、鳴門渦潮ベンチも継投準備は進めていた。初回から2番手投手・髙田 圭哉(3年)が投球練習を続けていたのだ。高田は徳島大会準々決勝・富岡西戦で岡田をリリーフした最速139キロを誇る投手だ。 しかし、彼のブルペンでの投球内容は、決して芳しいものではなかった。森 恭仁監督が継投の判断を下せなかったことは十二分に理解できるのだ。
満を持した「夏マウンド」だった
時計の針を少し戻そう。鳴門渦潮は昨秋、今春ともに県大会初戦で敗退。この夏、下剋上を果たして甲子園に出場したわけだが、これまで、岡田は慎重に起用されていた。 昨秋、鳴門渦潮は最速153キロ右腕・川勝 空人投手(3年)を擁する生光学園と対戦。岡田は151球5失点の投球だった。以後、ひじや腰への不安を取り除くため、岡田の主戦場は、マウンドより内野手に変更された。海部に敗れた春季県大会でも髙田に先発マウンドを任せ、自らは「5番・一塁手」で先発。マウンドに立ったのは6回からだった。 「夏に岡田を万全の状態で起用するためにも、無理をさせないようにした」と森監督は言う。その結果、夏の徳島大会で「ずっと全力を出せるようになった」岡田は自己最速を更新する145キロをマークしたばかりでなく、全5試合に先発し43回3分の1、663球を投げ防御率0.83を記録。決勝ではUー18日本代表候補の阿南光・吉岡 暖投手(3年)に投げ勝ち、聖地に乗り込んできた。 打っても徳島大会22打数10安打5打点1本塁打。早稲田実戦でも4打数2安打2打点とチームの大黒柱たる矜持を示した岡田。それだけに彼の負担を軽減できる投手がいたら……と思う。しかし、徳島県には、複数の投手が集まりにくい制度があるのだ。公立高校独特の推薦入試制度「育成型選抜」がそれである。