経済学者が「インフレ期には株式投資を」に抱く強烈な違和感、株式や不動産投資へのリスクが語られていない
■インフレになれば、金利が上がる 以上のような考えに対して、いくつか注意すべき点がある。 まず最初に注意すべきは、インフレ率が高まれば、名目金利は上昇するということだ。 経済活動に中立的な実質金利(自然利子率)は、実質GDPの潜在成長率に等しく、これは物価によっては影響を受けない。したがって、物価上昇率が高まれば、経済活動に中立的な名目金利(中立金利)は高くなる。そして預金の金利も上がる。 実際、すでに日本の金利は上昇しており、預金金利も上昇し始めている。預金金利の引き上げが、インフレ率の上昇に遅れることはあるかもしれない。しかし、インフレ率だけが高まって、預金金利が変わらないという状況はありえない。
ただし、預金金利が上がるとしても、株式や不動産への投資の収益率より低いのが普通だ。では、やはり株式投資をすべきか? 必ずしもそうとは言えない。なぜなら、株式投資はリスクのある投資だからだ。 リスクがあるとは、収益率が確定していないということだ。高い収益率を実現できる場合もあるが、逆に非常に低い収益率になる場合もある。場合によっては、損失を被る場合もある。株式投資をした人のすべてが、預金よりも高い収益率をかならず得られるわけではない。
借入をして実物資産に投資する場合も、平均的に見れば高い収益率が期待できるということであって、個々の場合を見れば、すべての投資が大きな利益をもたらすわけではない。場合によっては損失を被ることがある。その場合には借入金を返済することができなくなり、困難な状態に立ち至るかもしれない。 ■インフレだから企業利益が増えるとはかぎらない 企業の利益はさまざまな要因に影響される。だから、すべての企業やすべての株主が、あらゆる場合に、インフレで必ず利益を得られるわけではない。
借入で住宅に投資した場合も、購入した住宅がどの程度値上がりするかは、地域や住宅の種類などによって大きく異なる。そもそも、値上がりするかどうかさえ、定かではない。 このように、貯蓄から実物資産投資に移行することが、どんな場合もインフレに対する有効な手段であるとはいえない。 株式や実物資産に対する投資の収益率が預金金利より高いのは、このような危険に対する報酬なのだ。 リスクのある資産の平均収益率と安全資産の収益率の差を、「リスクプレミアム」という。