経済学者が「インフレ期には株式投資を」に抱く強烈な違和感、株式や不動産投資へのリスクが語られていない
日本のインフレ率が今後高まる可能性がある。それに応じて、収益率の低い預金から、収益率の高い株式投資へのシフトが必要だとする意見がある。しかし、これは、リスクプレミアムを無視した考えだ。どれだけのリスクをとれるかは、人によって大きく違う。 昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第134回。 ■インフレで資産保有形態が変化するか? これまで日本では、長期にわたって物価上昇率が低い状態が続いていた。しかし、ここ数年、この状況に変化が見られる。
まず、アメリカのインフレが世界各国に広がった。円安が進んだ日本では、輸入物価が高騰し、これが国内の物価を引き上げた。賃金が上昇し、それが物価に転嫁され物価が上昇する可能性がある。 さらに、政治が不安定化したため財政赤字が拡大し、これが物価上昇を加速する可能性もある。アメリカでトランプ政権による減税によって財政赤字が拡大して物価が上昇し、それが日本に影響する可能性もある。 こうして、日本経済が新しい時代に入ったという見方が増えている。それはさまざまな経済活動に影響を与えるが、人々の資産保有形態にも影響を与えるとする見方がある。
まず、預金から株式や不動産への移行を進めるべきだと言われる。預金では利率は低いが、株式や不動産にすれば、預金の利率より高い収益率を得られるからだ(ここで、収益とは、配当や賃貸料、値上がり益など)。 名目資産の保有額をゼロにするだけでなく、さらに進んで、マイナスにするほうがよいという考えもある。つまり、借入をして投資をするのだ。 個人なら、例えば、住宅ローンを借りて、タワーマンションという実物資産に投資する。企業は、銀行借入や社債の発行で得た資金を実物資産に投資しているので、利益を得られる。その株主も、この利益の一部を得られる。