映画『ふれる。』長井龍雪監督&清水Pが語る、『あの花』『ここさけ』『空青』以降の新境地
秩父三部作との連続性を感じさせつつ、新境地を見せる作品に
─今作はコミュニケーションが大きなテーマのひとつだと思うのですが、どのように決まったのでしょうか? 長井:テーマ自体は岡田さんのほうから出てきたもので、コミュニケーションというよりは「上京」で起こる変化によって変わる関係性を描こうっていうのが最初にあったテーマです。 自分たち3人でつくるときはいつもコミュニケーションの話になってしまうのですが、そのなかに今回はSNSなどの現代的なテーマをちょっと盛り込んでみて、それらによって変化する関係性を「ふれる」が持つ不思議な能力を使って描きました。 清水:秩父三部作の主人公は高校生で、20歳以上の主人公は今回が初めてです。青年や社会人なってからのいろんな状況下での葛藤や友人関係、恋愛みたいな部分が今作の新境地だと思います。 清水:最初の原案コンセプトを聞いたときからすごく面白いなと思いました。過去3作は女性がヒロインでしたが、今回は男性3人でいくのもすごく斬新だなと思いましたし、秩父三部作でやりきったからこその上京物語というのが腑に落ちました。 過去3作とは物語としてつながっていないですが、作り手も観客も成長して、主人公の年齢も成長していたり、テーマや長井監督の作家性は変わらなかったりという面で過去の作品との連続感を感じられますし、一方で新しい面も見せることができたと思っています。 ─主人公のひとり、小野田秋は口下手で体が先に動いてしまうキャラクターです。『ここさけ』の主人公である成瀬順とも共通点があるように感じますが、描き分けで意識された部分はありますか? 長井:順の方は機能的に喋るのが難しくて、トラウマなども設定していたので書きやすかったです。秋は言葉にして話すことが苦手で、「ふれる」の存在によって諒・優太と友情が成立した幼少期を過ごしたがゆえにいびつになっているという部分が土台として違うので、描き分けを意識することはなかったです。ただ、ちょっと難しいタイプの主人公ではあったので悩む部分もありました。 ─具体的にどのような部分で悩みましたか? 長井:喋らない性格をどう表現するかなど、捉えどころが難しいキャラクターをお客さんにどういうふうに見てもらうかのバランスも難しかったですね。 でも、永瀬廉さんの声がついて「秋はこういうキャラクターだったのか」と自分のなかで折り合いがついて、好きなキャラクターになりました。 清水:主人公としてストレートなキャラクターではないから難しいですよね。珍しい主人公だと思います。少し暴力的なところやコミュニケーションレスな部分もあるんですが、一方で彼の芯の強さや友達を想う心や正義感が岡田さんの脚本と田中さんの絵、永瀬さんの声で表現されて、いい意味で主人公っぽくなったと思います。 ─『あの花』から『ふれる。』まで、全作でファンタジー要素が織り込まれているのも特徴的ですが、長井監督のなかにこだわりなどはあるのでしょうか? 長井:いつも最初はもっとファンタジーの多い「アニメっぽい感じ」のアニメになりたいと思ってつくるんですが、結果的に地味に落ち着きます(笑)。 清水:地味ではないですよ全然(笑)。 長井:結局趣味というか、好きだからやってると思うんですけど、もうちょっとわかりやすいアニメっぽくなりたいなという想いがあるんです。最初はファンタジー要素もいっぱい入っているんですが、いつものかたちに落ち着きます(笑)。 清水:長井監督はファンタジーと現実の接着がすごいと思うんですよね。演出力が高く自然に接着されているので、展開についていけなくなることがないんだと思います。ただ、今作はこれまで以上に動きもありますし、新しい一面を楽しんでいただけると思います。