統一戦中止で「心に穴があいた」井岡一翔はなぜ大晦日のリングに立つのか…「新型コロナ禍だからこそ挑まねば」の信念
ジムサイドは、まずアンカハスとの延期交渉に入った。今年4月から試合間隔のあいているアンカハスサイドは、井岡との統一戦の前に1戦挟みたいとの意向を示したため、こちらにもTBSが生中継の枠を抑え、会場準備も終えていた大晦日に試合を行うという選択肢が浮上した。対戦候補としては、世界ランキング6位で、日本&WBOアジアパシフィックの2冠王者である福永がリストアップされ、井岡に打診された。 井岡は「試合できるのはありがたい。福永が候補として挙がり、サウスポーと聞いて、“やりたい。(話を)進めて欲しい”」と返答したという。 闘志は消えてはいなかった。 「一番は大晦日に試合がやりたいという気持ちが強かった。望んでいた統一戦はなくなったが、この状況で次にいつ試合ができるかわからない。試合ができることを最優先に考えた」 大晦日の代替試合を決断した理由は3つある。 ひとつ目は井岡の人生観であり新型コロナ禍で膠着した社会へのメッセージだ。 「新型コロナ禍で、いろんなことが制限され、試合も中止になった。だからこそ戦い続けないといけない。望んでいることがすべてできるわけじゃない。試合ができることに感謝して人生として挑んでいかなくちゃいけないと思っている」 新型コロナ禍という大きな試練にファイティングポーズを取り続けたい。この試合は井岡の生き方を貫く防衛戦なのだ。 そして対戦候補がサウスポーの福永だったことも決め手のひとつになった。 福永は、サウスポースタイルから右のフック、左ストレートを武器とするKO率の高い好戦的ボクサーで、“リトル・パッキャオ”の異名を持つが、実はアンカハスにタイプが似ている。 ここまでアンカハスに対して入念な対策をしてきた井岡にとっては「仮想アンカハス」として最適な選手。「注目もしていなかったし、別にやりたくもない選手。チャンピオンとしてメリットのある試合ではない」が「どんな状況においても挑戦する」という信念とサウスポーであることが上回った。 さっそく映像をチェック。「決して弱くない。油断できない選手」という印象を持った。 福永は2013年にプロデビュー、2016年に全日本新人王を獲得し、昨年2月にWBOアジアパシフィックタイトルを獲得、同12月に日本王座も統一した”遅咲き”だが、19戦15勝(14KO)4敗の高いKO率を誇る。この10月には無敗の梶颯(24、帝拳)を判定で破り井岡との対戦を熱望していた。 「全体的に気を抜けない。こういうタイミングだからこそ、より気を引き締めないといけない。向こうにとってはチャンスで気持ち的には上がっている。日本、(OPBF)東洋と取って波にも乗っている」 3つ目の理由は、大晦日の顔としての使命感。29日に予定されていたWBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太(帝拳)とIBF世界同級王者、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)との世紀の一戦も流れ、年末のボクシングの熱を冷ますわけにはいかない。そして延期となったアンカハスとの統一戦に向けての“前哨戦”としての位置付けがある。 マネジメントをしているトラロックエンターテインメントの二宮雄介氏は、「お互いに1戦を挟んでやりましょうということで合意している」と明言した。井岡も「統一戦はずっとやりたい気持ちがある。僕自身も、そしてアンカハスも残念に思っていると思う。お互い1戦を挟み、目の前の試合をクリアして統一戦を現実にしたいと思っている」と先を見据えた。 絶対に負けられない防衛戦となる。
「やると決めたら負けられない。それに尽きる。モチベーションどうこうより、決めたことに結果をちゃんと出さなければならない。それだけですね」 井岡は、思いつめたような表情でハッキリとそう語った。 「今年の最後をいい勝ち方で締めくくりたい」 今週にもスパーリングを打ち上げる予定だ。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)