"国内2冠"トヨタの宮田莉朋が語るF2の現在地。「最低限のスタートラインにすら立てていない」
■モリゾウさんの熱い思いに応えたい ――宮田選手は4歳でカートを始めて、いろんなレースに出場してきたと思いますが、こんなにうまく行かないシーズンは初めてじゃないですか? 宮田 初めてですね。うまく行かない中でも自分がやらなければならないことはわかっていますが、レースに集中できていないというのが現状です。日本でレース前にできていた準備をヨーロッパでも同じようにできていればいいのですが、今はそれができないのに、あれこれやってしまっているのが現状です。それを整理してシンプルにして、自分のレースキャリアにフォーカスする状況にしたいと考えています。 ――今、トヨタはF1との関わりを強めていますし、宮田選手もF1で走りたいという思いがあります。これからどうやってF1への道を切り開いていこうと考えていますか? 宮田 モリゾウさんを始め、僕を応援してくださっているTGRの方々とはお会いしているので、皆さんの熱い思いはわかっています。 ――トヨタはF1に参戦していませんが、モリゾウさんは「トヨタの育成ドライバーがF1を目指すことをバックアップする」と発言しています。 宮田 そうです。だからこそ、焦らずに地道に頑張ろうと思っています。今年に関しては、いきなり結果が出るとは思っていませんでした。多分、苦しいシーズンになるだろうと予想していましたが、それを乗り越えた先でいい結果を残そうという思いでスタートしていました。 F1までの道を切り拓くためには結果を出すことはもちろん大事です。でも今の僕にとってはレース以外の要素が壁になっていたりするので、これまでの環境やプロセスを今一度見直す必要があります。それがわかっているだけでもポジティブだと考えています。あとは僕と一緒に頑張ってくれているTGRの皆さん、所属チームのメンバーと一致団結して取り組むだけだと思っています。
■来年も本場のヨーロッパで戦いたい ――宮田選手にとって今、壁になっているのは具体的に何ですか? 精神的なこと、あるいはフィジカル的なこと? それとも生活する場所など、レース以外の私生活に関わることなのですか? 宮田 レースでメンタルが問題になっているわけではありません。複合的な要素です。例えば、今おっしゃった住む場所も考え直さなければならないかもしれません。僕は今、ドイツのケルンに住んでいますが、F2はイギリスのチームに所属して戦っています。ドイツに住む理由はなんだろうとか、そういったところから見直す必要があるのかなと思っています。 レースに関しては、正直、僕のやりたいことを十分にやれていない状況にあります。日本でレースをしていたときは、僕のキャリアを一緒に歩んでくれた家族、所属していたトムス・チーム、TGRの方々に自分の意見を言えば状況を理解してくれ、一致団結して戦う体制がつくれました。 ――日本ではあった戦うための体制が、ヨーロッパではつくりあげることができていないということですね。 宮田 そうなりますね。それがないと、ヨーロッパでは最低限のスタートラインにすら立てません。それどころか、周囲と大きな差が生まれた地点から始めなければなりません。やっぱり日本人がヨーロッパで戦うことはすごく大変なことだとあらためて感じています。 逆にヨーロッパのドライバーが日本で戦うときには万全の準備をしてきます。彼ら以上にしっかりと体制をつくっていかないと、日本人はヨーロッパで成功できない。そこがちょっと行き違っている部分があると感じているので、まずはそういうところをきっちり見直していきたい。 来年の活動はどうなるのかわかりませんが、ヨーロッパでレースをしたいという気持ちは変わりません。そのためにも今年は何がダメで、ダメなところどうやって改善していくのか、という点を今年中にしっかりと見つけていかなければならないと思っています。それが来シーズン、結果を出すための鍵になると考えています。 ●宮田莉朋(みやた・りとも) 1999年8月10日生まれ、神奈川県出身。4歳でカートを始め、2015年にFIA-F4選手権で4輪デビュー。2016年はトヨタのプロドライバー育成プログラム、フォーミュラトヨタ・レーシング・スクールのスカラシップを獲得。その後、FIA-F4、全日本F3、全日本スーパーフォーミュラ・ライツを経て、2020年には国内最高峰のスーパーフォーミュラ(SF)にデビュー。同年にはスーパーGTのGT500クラスにもフル参戦を果たす。2023年はSFとスーパー GTの両方を制して史上最年少24歳でダブルチャンピオンを獲得。2024年は活動の場をヨーロッパに移し、F2とヨーロピアン・ル・マン・シリーズに参戦しつつ、WECのトヨタ のリザーブドライバーとしても活動する。 インタビュー・撮影/熱田 護