コーチングを組織能力にする ~米国における社内コーチの発展
米国企業の事例
この点について、米国企業の顧客と触れていく中で学んだことがあります。それは、コーチングの組織活用に関する長期的なビジョンと戦略です。 ある米国政府機関は「強固なコーチング文化を創り上げ、 100%の職員にコーチングの機会を提供する」というビジョンを掲げ、10年以上、毎年10名以上の社内コーチを開発し続けています。彼らは、社内コーチたちにICFの資格取得を義務づけ、その仕事が社内において誇り高いプロフェッショナルなキャリアだと位置づけています。 また、北米市場で6万人規模の組織を要する大手金融機関では、10年以上にわたり、毎年20名以上がコーチングのプログラムに参加し、社内コーチとして活躍しています。彼らはフィナンシャル・アドバイザーのビジネスの成功をコーチする専門家となり、彼らが所属するチームは Center of Excellence(CoE)としてブランド化され、全社のコーチング文化を牽引しています。CoEの活躍は口コミを生み出し、今では多忙なラインマネージャーでさえも「私も彼らと同じプログラムで学びたい」と自発的な応募が来るようになっています。 どちらの組織も「コーチングを組織能力にする」ビジョンを明確にし、社内コーチやそのチームをブランドにすることを重視しています。社内コーチに任命された人たちがプライドをもって、社内で縦横無尽に1on1やグループコーチングを実践し、コーチング・トレーニングを行う環境を整えているのです。 ある社内コーチが教えてくれました。 「事業部門出身者が、キャリアのある時点で社内コーチの経験をし、また事業部門に戻る。その人材は、いずれコーチングを自然に使いこなすビジネスリーダーになっていきます」 即ち、組織は、社内コーチというキャリアを、タレント開発の1プロセスとして組織能力に組み込みつつあるのです(※5)。
社内コーチという組織能力
ICFの2023年の調査は、今後5年間で、企業はコーチ力を持つリーダー・マネージャーの開発を通じたコーチングの活用や社内コーチの活用に力を入れる見通しがある、と指摘しています(※6)。 社内コーチの開発に力を注ぐ組織は、コーチングを組織能力として内部化させることで、 ① 幅広い将来タレント人材への機会提供 ② 低コスト化 ③ 組織事情に合わせたコーチングの最適化 ④ タレント開発 の可能性に着目しています。 こうした考え方は、今後の日本企業にも十分に活かせるのではないでしょうか。 先日、COACH Uのアドバイザリーチームの会合で「なぜ、コーチングが企業組織に浸透しづらいのか」というテーマで意見交換をしたとき、ある経験豊富なメンバーが、次のように主張しました。 「マネージャーにとって、コーチングのモデルがいない。ビジョンが見えない。だから浸透がしづらいのではないか」 その時、私は思いました。 具体的な「人」としての「社内コーチ」は、ビジョンになりえるのではないか、そういう人材を組織に輩出することで、組織はコーチングを自分のものにできるのではないか、と。