「次世代のバラ」を知っていますか? バラ育種家・木村卓功さんが語るバラへの思いと魅力
バラは自分自身を表現するパートナー
私にとってバラは、自分自身を表現するパートナーです。バラの存在があることによって、私自身が表現するものを代わりに作ってくれる感じです。それと同時に、私にとっての人生そのもので、バラがない人生だったら本当につまらなかっただろうなと思います。画家はキャンバスと絵の具と絵筆で自分の内面を表現していくのだと思いますが、バラの育種家はそれをバラが代弁してくれます。 画家の子どもが画家になれるかってほとんどなれないじゃないですか。ある意味ちょっと狂気じみた絵への執念であったり、技術であったり、思いであったり、色んなものが積み重なって画家って生まれてくるのだと思っています。バラの育種家もある意味、バラに狂っていないと無理なので、学校で勉強したからってできるものではないです。 大きな会社で、育種家の一人として携わるのならいいですが、私のように自分でマーケティングまでやるとなると、いろいろな知識が必要になってきます。私もいつかは育種ができなくなりますので、当社としても、次の世代の育種家を育てなければいけないと思っていますが、なかなか難しい課題です。 一言で言いますと美しいバラがありました。耐病性の高いバラもありました。でも、耐病性の高いバラは美しくないバラでした。普通に耐病性の高いバラと美しいバラを交配すると、ほとんど耐病性が高くなく、美しくないバラが生まれてきます。耐病性の高いバラと美しいバラの共存は奇跡的な確率です。そこに香りをつけようとしても、ほぼ付かないので確率が凄く低いです。新しい品種を生み出すためには分母が必要になり、長い年月とお金がかかります。私は耐病性、耐病性と主張するバラの育種家ですが一番のベースは花です。花形や花色でまずは視覚で引きつけて、その次に近寄って香りを楽しんで、その先にあるのが耐病性です。 また、虫が付きづらい品種ってあります。虫の種類によっても違いますが、耐病性がほぼ完成したら、今度は耐害虫性育種が始まっていくと思います。経験値からですが、パリっとしたバラは虫が付きにくい感じがありますが、全体的に香りの良いバラは虫が付きやすいと思います。一気にはできないので、一つずつ積み重ねていくしかないです。多分、死ぬまで完璧なバラは作れなかったと思いながら、死んでいくのだろうなと思います。