紛争地ジャーナリスト・玉本英子:「砲弾がかすめ上空にドローンが」、ウクライナから伝える戦争のリアル
持田 譲二(ニッポンドットコム)
日本では数少ない、紛争地をフィールドワークにする女性ジャーナリスト、玉本英子さん。現在はロシアのウクライナ侵攻で犠牲になる人々の姿を追う。侵攻が始まり1000日余り。過酷な戦地に入り、この戦争の非道をリアルに伝えている。
玉本さんの第一印象は、小柄で物腰の柔らかい女性だ。大阪育ちということもあって、戦争に関する講演では笑いも交えるなど、ユーモアを忘れない。重さ10キロもの防弾チョッキとヘルメットを身にまとい、撮影機材を抱えながら、戦地を駆け巡る映像ジャーナリストの姿はとても思いつかない。 この世界に入ったのは、デザイン会社での仕事を辞めた1990年代の初め。きっかけは「国を持たない世界最大の民」クルド人がトルコでの迫害に抗議して、ドイツで焼身を図ったニュースを見て、衝撃を受けたことだ。「なぜそこまでして抗議するのか、知りたいとの思いがありました。踏み出すことにためらいはありませんでした」
戦争を取材テーマとするのは、父親が5歳の時に広島で被爆したことが影響している。「父が幼少の時に投稿した文集を読んだり、話を聞いたりしていたので、子供のころから戦争の悲惨さを身に染みて感じていました」。父は娘の思いを察したのか、危険が伴う仕事にもかかわらず、黙って送り出してくれたという。 当初は企業の受付係など派遣社員として働き、取材資金を稼いだ。先輩ジャーナリストから取材の基礎を学び、徐々に経験を積みながら、2000年代はイラク戦争や過激派組織のイスラム国(IS)が台頭したシリアなど中東地域で活動。テレビや雑誌での現地リポートのほか、この10月には都内としては初の写真展(NPO法人「世界の医療団」主催)を催し、講演も含め戦争と平和を伝える活動に取り組む。
妊婦が巻き込まれる
ウクライナには、侵攻が始まった2022年から毎年、数カ月滞在し、ロシアと対峙(たいじ)する東部や南部を拠点に取材。砲弾が飛び交う最前線に行くこともあるが、戦闘地域に取り残された高齢者や女性、子どもの姿を丹念に追い、犠牲となる市民を数多く目撃してきた。 つらかった取材の一つが、今年2月の東部ドネツク州の町セリドヴォでのミサイル攻撃の現場だ。カーチャ・グーゴワさんは妊娠8カ月で体調がすぐれなかったため、夫に連れられ近所の病院に入院した。その日の夜、妻の母親から「自宅近くがロシアのミサイル攻撃を受けた」と電話があり、夫は急いで自宅に戻った。