紛争地ジャーナリスト・玉本英子:「砲弾がかすめ上空にドローンが」、ウクライナから伝える戦争のリアル
約1時間後、今度はこの病院が被弾。最初の攻撃の被災者が病院に運び込まれるのを見越したかのようなロシア軍の「時間差攻撃」に巻き込まれ、カーチャさんとおなかの子は命を奪われた。 玉本さんは数日後、現場を訪れ、夫に話を聞いた。 「カーチャさんは39歳という高齢で、やっと子どもができて喜んでいたそうです。ところが、彼女を病院に残したままにしたことで、助けることができず、非常に苦しんでいました」
3月、南部の都市オデッサでは、集合住宅がロシアの自爆型ドローン攻撃で建物上部が吹き飛び、子ども5人を含む12人が犠牲となった。「午前1時ごろ、ドーン、ドーンと大きな音がしました。ウクライナ軍の対空砲火は暗闇の中で、火の玉みたいに光ってました」と、玉本さんは当時を振り返る。 翌日、現場に駆け付けると、救助隊ががれきの山から遺体を引き揚げていた。 「前日まで、そこの家族たちは食卓を囲んでいたでしょう。そんな日常が一瞬にして断ち切られてしまった。ウクライナ各地で毎日、同じことが起きているのです」。普通の市民が突然命を奪われる不条理に玉本さんは憤る。
見えないドローン
戦地での取材は危険と隣り合わせだ。 南東部ザポリージャ州のオリヒウに入った時のことだった。「ヒュー」という音を立てて、ロシア軍の砲弾が玉本さんら取材チームの頭上を通り過ぎ、すぐ近くに着弾した。 過去には各地の戦場を取材中に亡くなった日本人記者たちもいる。命を顧みないと誤解されがちだが、玉本さん自身は「案外びびりなんです」という。プロから紛争地取材の実践訓練も受けたし、危険と判断すれば、前線取材を断念することも多い。現地で協力してくれる通訳や運転手を危険にさらさないためにも、細心の注意を払う。地雷が埋まっているかもしれないから、野原や畑を安易に歩くことはしない。 そして、この戦争を特徴づける脅威が、ロシア軍の無人機ドローンによる遠隔攻撃だ。イラン製の「シャヘド」で長さは2、3メートルもあり、「カミカゼ」とも呼ばれる。編隊で飛来して標的に突入し、爆発する。前線地域では、小型ドローンが頭上から突っ込んできたり、爆弾を投下したりする。 玉本さんはドローンが上空に現れた時の恐怖をこう語る。 「上空でブイーンと大きな音がしたんです。だけど空を見上げても決して見えない。そばにいたウクライナ軍兵士と共にすぐに建物の中に逃げました。『ドローンの音がしたら、いつ突っ込んでくるか分からないと思え』と兵士に言われました。遠隔操作で上空から監視して、狙いを付けているのかもしれない。砲撃とは違う恐怖を感じました」